「規制する側が間違うことだってある」グーグルCEOの反トラスト法提訴に対する言い分 | クーリエ・ジャポン

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Jan 26, 2021 11:33 PM
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Photo: Getty Images
大統領予備選の候補者が「解体案」を高々と掲げたり、司法省が反トラスト法違反の疑いで提訴したりと、グーグルを取り巻く環境はこの数年で非常に厳しくなっている。グーグルCEOのスンダー・ピチャイが英紙に冷静な口ぶりで自分たちの言い分を語った。

CEOとしての仕事は「法規制の脅威と向き合うこと」

何年ものあいだ、テック業界の巨人グーグルは怒りを買い続けてきた。
2020年10月、反トラスト法違反で米司法省が同社を提訴し、さらに12月には全米の数十州が反競争的行為の疑いで同社を相手取り、2日連続で訴訟を起こした。グーグル側に言わせれば、一連の「グーグル叩き」は、どこか復讐を思わせた。
過去10年、反競争的行為をめぐってグーグルと対決してきた欧州連合(EU)欧州委員会も、一握りの巨大プラットフォーマーの支配力を削ぐ包括的な新規制法案を公表し、規制の強化を加速させている。
スンダー・ピチャイ(48)がグーグルの最高経営責任者(CEO)に就任してから約5年、いまや彼の職務のほとんどは、増える一方の法規制の脅威から会社を守ることになった。
また2020年は、持株会社アルファベットのCEOに就任した1年目でもあった。アルファベットの子会社にはグーグルのほか、壮大な「ムーンショット」狙いの自動運転車を開発するウェイモ社がある。
手持ち資金を多方面に大量に燃焼させ続けている持株会社アルファベットをスリム化し、子会社グーグルの経営資源をAI部門へ集中すること。これはピチャイの仕事では日の目が当たらない部分だが、これこそ会社の存続を賭けた彼の重要な仕事かもしれない。
グーグルにとって、各国政府の介入への対応策は待ったなしだ。この不可避の事態に対するピチャイの戦略は明確だ。それは、弊社に対する新しい規制法案は歓迎する。ただし、致命傷は徹底して避けたい、というものだ。
この戦術は、昨年12月15日に欧州委員会が発表した新たな法規制「デジタルサービス法案(DSA)」への対応でも明らかだ。DSAはグーグルのようなテック業界最大手のプラットフォーマーに、違法コンテンツの監視などを義務付けることが目的だ。
本紙「フィナンシャル・タイムズ」の取材に対し、ピチャイは「欧州委員会の新しい規制法案は重要であり、私たちとしてもしっかり向き合って熟考しなければならないと考えています」と述べ、こう続けた。
「プラットフォーマーとして果たすべき責任とは? どのような契約を望んでいるのか? 明確なプロセスや透明性が必要とされているのはどこか? どれももっともな問いです。一連の課題についてとことん考え抜いて取り組むのは、とてもやりがいのある仕事です」

「グーグル解体」への抵抗

とはいえ、細部となると、事はそう簡単ではなさそうだ。欧州議会が3年前に施行したプライバシー関連規制「一般データ保護規則(GDPR)」は、ユーザーの個人データを大量に蓄積している会社に狙いを定めている。要するに標的はグーグルのような会社だ。
「この規制も含め、一概には申し上げられません。ただ、規制する側が間違う場合だってあるでしょう」とピチャイは指摘する。
そして彼は、EUが出してきたある提案についても懸念を表明する。それは、グーグルのようなテック大手に自社データの一部を競合他社に開放することを義務化して競争を促す、という趣旨だ。
「むしろ、この難題に取り組むべきは各国政府のほうです。重大な結果をもたらしかねない提案に関してはよくよく考えてからでないと。それはきわめてオープンなエコシステムになるかもしれませんが、セキュリティ上の問題も出てくるはずです」
根っからの慎重派のピチャイはCEOにふさわしく、冷静に妥協点を見出すタイプ。前任者でグーグル創業者のラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンとは対照的だ。ペイジとブリンは、当然予想される反発には目もくれず、とにかく破壊ありきで突き進むタイプの経営者だ。
反トラスト法違反で提訴を連発させた欧米の政治家はさしずめ、グーグル解体がその目的だと暗に示しているのかもしれない。グーグルにとっては喫緊の課題だ。
ピチャイは、新型コロナウイルスのパンデミックが、コミュニケーションとコラボレーションのデジタル化を一気に加速させ、その結果、グーグルのような会社に収益が集中したとは言えるかもしれないと述べた。しかし、それはなにもグーグル一社ではないと彼は続ける。
「1人勝ちのように見えても、私たちから言わせればそうではないと申し上げたい」
ピチャイの話しぶりには長年、反トラスト法違反で訴えられ続けてきた側として、寸分の隙もない確固としたスタイルがある。遅ればせながらそこへ加わったのがアメリカの規制当局というわけだが、彼の主張の要点は変わらない。たとえば、テクノロジーの世界に多方面にわたる恩恵をもたらしたのは、グーグルの持つ技術プラットフォームだという反論だ。
たとえばモバイル向けOSのアンドロイドについて、「私たちは文字どおり世界中の何百もの携帯電話メーカーにアンドロイド・プラットフォームを提供しています」と述べている。だが、グーグルを相手取った独占禁止法違反訴訟は、いずれも同社がモバイルOS市場を独占し、圧倒的な利益を得ていると告発している。
「オープンなプラットフォームという謳い文句で参入し、その後、事実上のクローズマーケット化して使用料を吊り上げるというのがグーグルのやり口」と非難するのは、ローカルビジネス検索イェルプ(Yelp)で公共政策担当上級副社長を務めるルーサー・ロウだ。
同社は10年にわたり、反グーグルキャンペーンを展開してきた。ロウは、グーグルのアンドロイドOSは 「開発者にアプリを書くチャンスを増やした」ものの、モバイル機器上の検索エンジンはほとんどがグーグルに置き換えられたと指摘する。

私たちはチャレンジャーの立場

ピチャイはさらに、グーグルが有利な地位を確立する道具として企業買収を悪用したとの疑惑もあわせて否定する。彼は、「初期段階ではお断りした買収もありました」と述べたが、具体的には言及しなかった。そして今後の買収について含みを残しつつ、こう付け加えた。
「買収の時点で見逃している投資分野というのはありますから」
見逃しの理由について、「イノベーションにさらにプラス要素が見込める企業のみを買収したいと考えているから」、あるいは、ユーザーの利益になるかどうかを判断基準にしているからだと説明する。
「長年、企業買収に際してはずっとこの方針です」
広告テクノロジー関連会社の役員だったダイナ・スリニヴァサンは、新たにアメリカ国内でグーグルに対して起こされた反トラスト法違反提訴の訴状原案作成に加わった1人。グーグルの企業買収について彼女は、デジタル広告のあらゆる部門を独り占めし、ライバルを締め出す戦略の一環だと批判する。
グーグルはこれまで、少なくとも他の大手プラットフォーマーが独占する市場では後塵を拝している側だという、やや眉唾ものの自社擁護論を展開してきた。ピチャイは言う。
「私が重視するのは、市場のダイナミズムです。いまあるマーケットの多くは、過去にはなかったものばかり。クラウドやeコマース、スマートフォンの製造もそうです。チャレンジャーはむしろ私たちのほうです」
たしかにグーグルはこれらの巨大市場では後発参入組で、先発組のアップルやアマゾンをしのぐインパクトをいかに与えるかに腐心してきた。とはいえ、株式時価総額が1兆ドルを超え、ネット検索とデジタル広告を牛耳り、2021年度の収益も2000億ドル以上と予測されている巨大企業がそのような主張を繰り出しても、額面どおり受け取る人はいないだろう。イェルプのロウは言う。
「グーグルはしょせん検索屋。検索以外の部門で利益を倍にしようとしたら、検索を乗っ取って独占し、不正に利益を上げることしか残されていない」
ここでもピチャイは、デジタル情報の大きなマーケットにおよぼすグーグルの影響力を過小評価している。「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにすること」というグーグルの企業理念は、インターネットのスタートアップだった頃は大胆なミッションに聞こえたものだ。
しかし、いまやグーグルはとてつもない力と資金を有する巨大企業。不吉な響きのほうが勝ってはいないか。
それに対して、「私たちは、いまだに情報エコシステム全体のほんの一部でしかありません」とピチャイは反論する。
「動画市場を見てください。いまやかなりの数のプレイヤーがひしめき、情報量もかつてないほど増大しているではないですか。グーグルが独占するようなことはありえません」
グーグルに対する反発は、アメリカ大統領選挙期間中、政治広告の扱いに関して共和党議員から不信の目で見られてきたことにも表れている。どちらの政党が政権を取っても、グーグルはつねに標的にされてきたことはピチャイ自身も認めるところだ。
「人間である以上、生きる上で情報は不可欠。そして人々には、情報に関してそれぞれに強い考え方もあるでしょう。人々の視線が情報の価値に集中するのは、ごく自然なことです」
またピチャイは、ネット空間にニセ情報が瞬く間に拡散するのを防げなかった、という批判の矢面にグーグルが立たされ続けてきたことも認めているように見える。もっとも、以前と比べれば格段に進歩している、と主張することも忘れてはいない。
「問題はあるにしろ、結局、情報技術システムを構築しているのは人間、ということに尽きます。ページランキングやヒット精度の確立、これらの演算にAIを活用するなどのこれまでの歩みで自分たちが成し遂げてきた成果を見れば、イノベーションは急激に進んでいると考えています。
しかし、誤った情報をもたらす領域は確実に存在しており、私たちはさらに精度を上げなければなりません。だから、両方のことが言えるのです。私たちは大いに前進したが、まだまだやるべきことはたくさんある、と」(つづく)