アルメニア・アゼルバイジャン紛争に目を向けるべき理由「今回の軍事衝突は非常に危険だ」 | クーリエ・ジャポン

★★★:バランスよく議論できる
★★☆:意見を吟味する
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☆☆☆:議論用ではない
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Oct 2, 2020 10:26 PM
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アルメニア陣地に向かって砲撃するアゼルバイジャン軍(アゼルバイジャン・バクにて、2020年9月28日) Photo: Azerbaijan Ministry of Defence / Getty Images
コーカサス地方でアルメニアとアゼルバイジャンの紛争が再燃している。だがこれまでと違う地政学的な要因が多くある。元アメリカ海軍提督で、NATO欧州連合軍最高司令官として両国に関わったジェイムズ・スタヴリディスが経験談を交えつつ、背景から展望までを平易に解説する。
アルメニアとアゼルバイジャンの「凍った紛争」がひどく熱くなっている。西側からすれば世界の片隅で起こっている小競り合いくらいにしか見えないかもしれない。
だが、じつは地域の安全保障やエネルギー市場、さらには2人の厄介な絶対的指導者の野望に重要な影響を及ぼすものだ。その2人とは、ロシアのウラジーミル・プーチンとトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアンだ。
ソ連崩壊にまでさかのぼるこの争いの中心地は、アゼルバイジャン内にあるアルメニア人の小さい飛び地ナゴルノ・カラバフだ。
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The New York Times
この山地の自称共和国(擁護者であるアルメニアにすら正式に認められていない)は人口15万だが、高度に軍事化されている。
アゼルバイジャン人は、3万人が犠牲となった1990年代の衝突でこの地域の支配力を失った。度重なる武力威嚇や外交手段をもってしても奪還できずにきた。
北大西洋条約機構(NATO)で欧州連合軍最高司令官の任にあったとき、私は両国を何度か訪れた。
辺りには嫌悪と不信が充満していた。当時の両国の防衛長官は互いに憎み合っていた。両国ともNATO非加盟国のパートナーだったが、どちらの男も話したがるのは、相手が二枚舌の金まみれということくらいだった。
残念ながら、それぞれが自国の隣国に対する見方を正確に代弁しているに過ぎなかった。どちらの側も文字どおり、また比喩的に一歩も譲る気はなかったようだ。

「ミンスク・グループ」の不在

私がNATOにいた4年間(2009〜13年)で、アゼルバイジャン人による形ばかりの軍事攻勢はたくさんあったが、どれもアルメニア人に容易く阻止されていた。アルメニア人たちは、争いが深刻になれば自分たちが勝つことをほぼ確信していることがNATOの情報分析で判明していた。
ロシア連邦は、両側に武器と訓練を提供しており、じつのところ、ロシア人たちが多少の鎮静効果をもたらしていたのだ。ご存じのように、プーチンが仲裁役を演じているとき事態が悪いことと同じだ。
今回の紛争激化もいつもどおり、相手が先制攻撃を仕掛けてきたと双方が主張している。7月にあった銃撃戦では、アゼルバイジャン人が十数人(その大半が兵士)殺害された。死者は現在、100人近くになっている。
9月27日、各陣営が軍隊を動員し、戒厳令を敷いた。9月29日、アルメニアは、自国のジェット1機がトルコのF-16戦闘機に撃墜されたと発表した。トルコはその非難を否定した。
諸外国が紛争に介入し、新たに停戦協議を開始する気配もない。これまではそれで事態が、少なくとも一時的には沈静化してきた。
最近の取り組みで仲介役となったのは、いわゆる「ミンスク・グループ」(米・仏・露が共同議長)だったが、2010年に挫折したままだった。

これまでと違う国際情勢

今回の紛争再燃でとくに危険なのは、トルコとロシアがそれぞれ違う“馬”を強力に後押ししていることだ。
トルコ人はアルメニア人が嫌いで、アゼルバイジャンの同胞ムスリムを支持している(アルメニアでは、1世紀前のオスマントルコによる虐殺の記憶が、国民の考え方になお大きく影響している)。ロシアはアルメニアと正式に防衛条約を結んでおり、熱い軍隊同士の関係を築いている。
この戦闘と隣り合わせの他国といえば、常に不安定なジョージアと、アメリカが目の敵にするイランだ。
アゼルバイジャンは天然資源も豊富だが(原油の確定埋蔵量は70億バレル、天然ガスも大量に採れる)、アルメニアとの国境から16kmほどの近さを走るパイプラインもあり、狙われやすい。
緊張が高かったときにこの地域に何度も入っていた私だが、今回は危険なほどに違うように感じる。
ワシントンは来たる選挙にすっかり気を取られている。トルコとロシアはそれぞれ反対側についている(シリアやリビアでと同じく)。欧州連合は、ブレグジットの大詰めと東地中海でのギリシャ・トルコ緊張関係に飲み込まれている。
アルメニア、アゼルバイジャンとなおパートナーシップを組むNATOは、「両側とも即座に戦争行為を中止すべき」で「この紛争に武力的な解決はない」とは言うものの、具体的な提案はない。平和的解決のチャンスは望みが薄いように見える。

元NATOトップクラスが描く紛争解決の道筋

トルコを加えたミンスク・グループの新版ができれば、協定に向けた信頼は築けるかもしれない。プーチンは両国首脳と近いものの、ロシアは正教仲間のアルメニアに強く肩入れしてはいる。アメリカ、ロシア、トルコが協働すれば、破滅的な道から引き返すよう両陣営を説得できるかもしれない。
手始めとして考えられるのは、アゼルバイジャン人へのある種の象徴的な土地返還だ。それに続き、両国が銃器と爆弾の使用を止めると誓う(ちょうど中国とインドが、ヒマラヤ山中の「停戦ライン」での小競り合い後にしたように)。それから、新しい国境の開放に向けた段階的なアプローチをとる。明らかに、どれも期待できそうにはない。
コーカサス問題に通じたジャーナリストのトーマス・デ・ワールは優れた著作『黒い庭』(2003年、未邦訳、カラバフはロシア語で「黒い庭」を意味する)で、この紛争のルーツをたどっている。
その結論部分で、デ・ワールはこう記している。
「(ナゴルノ・カラバフ)紛争の公正な解決は、両側にとってつらい妥協を伴い、根本的に相反する原則を釣り合わせねばならないだろう」
目下、そんな妥協はほとんど期待できず、小さな紛争が大きな影響を及ぼすことになるかもしれない。