ブラジル・リオデジャネイロの街 Photo: Getty Images
コロナ禍で世界各国が失業者の増加に直面するなか、ブラジルにはパンデミック下でも経済をまわし、雇用の維持に成功している町がある。その「奇跡」をもたらしたベーシックインカムの仕組みと、他国での導入における可能性と課題について、NHK「国際報道2020」の池畑修平キャスターが解説する。
よみがえるキング牧師の言葉
最近、アメリカでマーティン・ルーサー・キング牧師に注目が集まることが増えている。黒人差別に対する抗議活動が続くなかで、改めてキング牧師が率いた1950年代から60年代の公民権運動を振り返るため……だけではない。
キング牧師が、1967年に出版した著書のなかで、就労や家庭状況などに関係なく政府が個人に一律的な経済支援をするベーシックインカム(基礎的な所得)の必要性を訴えていたためだ。キング牧師はこう説いた。
「私は、最もシンプルなアプローチが最も効果的だと確信するに至った……貧困の解決には、いま広く議論されている手法で貧困を直接、根絶することだ。保証された収入(the guaranteed income)によって」
キング牧師が用いた名称は少し違うが、概念としてはベーシックインカムだ。人によってはその頭文字から“BI”と呼ぶ。コロナ禍において家庭、とくに貧困層の家庭を維持する切り札は、人工知能のAIではなくBIなのだろうか?
ブラジル“奇跡の町”のBI
働いている人も働いていない人も、家族状況も関係なく、一律に個人に経済支援を行う──非現実的に聞こえるが、ブラジルでは、コロナ禍でも新規就労者の数が失業者数を上回っているために欧米メディアから「奇跡の町」と呼ばれるマリカ市は、ベーシックインカムによってその「奇跡」を実現している。
マリカはリオデジャネイロから車で1時間ほど、人口は約16万。富裕層が別荘などを持つ美しいビーチがあることで知られ、この夏にNHKサンパウロ支局の取材班が訪れると、人であふれて活気があった。
ベーシックインカムとして、7年前から、地域通貨「ムンブカ」がカードやスマートフォンへのチャージという形で支給されている。今では貧困層を中心に市のおよそ4人に1人がその恩恵にあずかっている。
現在はコロナ禍で支給額が増やされ、3人家族なら1ヵ月あたり900ムンブカ(約1万9000円)。人口の半数以上が、月2万1000円以下で暮らしているというだけに、市からの支給は生活を支える大きな糧だ。
地域通貨「ムンブカ」をチャージするカード Photo: AFP News Agency / YouTube