白人社会では黒人は安全に暮らせない! 米ジョージア州で進む「黒人だけの町」建設計画 | クーリエ・ジャポン

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☆☆☆:議論用ではない
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Jan 16, 2021 12:06 AM
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「フリーダム」プロジェクトの参加者たち Photo: The Freedom Georgia Initiative / Facebook
米南部ジョージア州で黒人だけが住む町の建設計画が進んでいる。人種差別が解消しないなか、黒人たちが身を守り、生き延びるためのプロジェクトだ。仏週刊誌が現地の声を取材した。

黒人だけの理想郷

米南東部ジョージア州の田舎町トゥームボロの近くに、黒人の家族19世帯が移住して黒人だけの町を建設する──。そんなプロジェクトが進行中だ。町の名前は「自由」を意味する「フリーダム」。
このプロジェクトを始めたのは、ジョージア州アトランタの郊外で暮らすルネ・ウォルターズ(36)とアシュレー・スコット(34)だ。理学療法士のルネは語る。
「前々から人種差別やパンデミックについては話をしていたんですが、そんなときにトゥームボロの町が170万ドルで売り出されたニュースを見かけたんです。それで実際に行ってみたら、売り出されていたのは、町ではなくてリノベーションが必要な36軒の建物でした。でも、その物件の代わりに見つけたのがこの土地です。一目見てここだと直感しました。興奮で体が震えました」
不動産仲介業者でもあるアシュレーは言う。
「それぞれ友人10人に、この土地の開発に投資しないかと売り込みました。町には魚が泳ぐ人造湖、バリアフリーの公園、農場、学校を建設する計画です。レストランやホテルもできます。ここに私たちの小さな理想郷ができるのです」
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「フリーダム」プロジェクトの発起人ルネ・ウォルターズ(右)とアシュレー・スコット(左) Photo: The Freedom Georgia Initiative / Facebook
19世帯が購入した土地の合計面積は39万㎡。それぞれの家族は2万㎡の土地に家を構えられる計算だ。
米国のジョージア州で地方自治体として認められるには258万㎡の土地、200人の住民、それから3つの公共施設(図書館、消防署、公園など)が必要だ。ルネに言わせると、いまは風が吹きすさぶ、辺り一面が松林のこの荒地に、やがてフリーダムという町ができるのは「100パーセント確実」だという。建設は2021年春から始まる。

子供たちを安全に育てるために

プロジェクト参加者の主な動機は「不安」だ。経理の仕事をするティファニー・ホップグッド(36)は言う。
「ルネからこの話を聞いて即断即決でした。13歳の息子が外で遊んでいても何の心配もしなくていいんですから。息子に“警官の前での振る舞い方”の話をして、息子の少年時代を奪うこともしなくていいんです。
いまは、夫が職場から『これから帰る』と電話して30分過ぎても帰ってこなかったら不安になります。私は一度も法律に違反したことはありませんが、道で警官とすれ違うときには不安で仕方がなくなります」
米国では人種差別が喫緊の課題になっている。2020年の大統領選の最終討論会でも、司会を務めるNBCニュースのクリステン・ウェルカーが、メディアや黒人の家庭で「トーク」と言われているもの、すなわち親が子供に向けて「警官の前での振る舞い方について話をすること」に言及する場面があった。
黒人と黒人以外の人種の両親から生まれたバイレイシャルのウェルカーは、問いかける。
「(有色人種の)親たちは、自分たちの子供が、肌の色のせいだけで、警官などから標的にされる可能性に備えざるを得ないのです。こうした親たちの不安がわかっていますか」

差別が解消されるまで待っていられない

ジム・クライバーン(80)は、サウスカロライナ州における公民権運動を代表する大立者だ。予備選中にバイデン支持を表明した彼は、こう言ってため息をつく。
「マーティン・ルーサー・キングの最後の著作『黒人の進む道──世界は一つの屋根のもとに』や、トランプについて言われていることの数々が頭をよぎります。トランプはカオスを作り出しています。不満が高まると、人はシンボルに頼りたくなるんです。フリーダムは、そういったシンボルのひとつですね」
かつてはジョージア州のアトランタのオーバーン・アベニューがそうしたシンボルのひとつだった。マーティン・ルーサー・キングの生家がある地区だ。現在はマーティン・ルーサー・キング・ジュニア国立歴史地区となっており、壁には、次の語句が書かれている。
「非暴力抵抗運動の活動家には、最後は正義が勝つという深い信念がある」
「フリーダム」プロジェクトの発起人アシュレーはキング牧師のその言葉を信じていないのだろうか。
「もちろん信じています。でも、誰かが人種差別の問題を解決してくれるのを待っていられません。その間にも、黒人が殺されていくわけですからね」
黒人だけの町「フリーダム」建設予定地

黒人は自宅にいても安全ではない

ここで数字を見てみよう。米国の司法統計局によると、服役中の黒人の数は2006年とくらべると、現在は3分の1ほど減っている。2006年の時点では、成人10万人に対し、服役中の黒人の数は2261人だったが、2020年は1501人になっている。
とはいえ、これはヒスパニック(797人)や白人(268人)より多い。黒人の子供は10人に1人の割合で、片親が刑務所にいる。白人の子供の場合は60人に1人だ。
米紙「ワシントン・ポスト」が2014年からつけ始めた記録によると、警官に殺された人は、黒人が人口100万人当たりで32人であるのに対し、白人が13人だった。武器を所持していなかったのに殺された人の40%が黒人だった。
作家・コメディアンのバラトゥンデ・サーストンは言う。
「2020年は最悪の年でした。パンデミックを乗り切るために力を合わせる必要があったのに、政府の職員による殺人が続いたんです。自宅にいるように要請されましたが、私たちは自宅にいても安全ではないんです」
2020年3月13日、看護師のブレオナ・テイラーは、ケンタッキー州ルイビルの自宅で警官に殺された。警官たちが探していたのはテイラーの元恋人だった。
2020年5月25日にはミネソタ州ミネアポリスで白人の警官がジョージ・フロイドを窒息死させた。警官は膝を8分46秒間、首に押し当て、フロイドが息ができないと言ってもやめようとしなかった。これらの事件ほど悲劇的ではなくても、似たようなむごい事件の話なら無数にある。
前出のプロジェクト参加者ティファニーの夫ディオドリック・ホップグッド(37)は、「テレビで報じられるほど深刻な事件」に遭ったことはないが、自分の車のナンバープレートが期限切れになっていたときのことを話してくれた。
「6台の警察車両に囲まれ、警官が全員、銃を持って車から出てきたんです。心配なのは息子のことです。友達を選ぶようにと言っています。警官に止められても口答えするなとも言っています。悪い子ではないんです。でも、取り乱して、何か間違った反応をするのではないかと不安なんです」
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黒人だけの町「フリーダム」建設予定地に立つアシュレーたち Photo: The Freedom Georgia Initiative / Facebook

多様性よりもまずは安全

その心配をしなくていいのなら、白人やラティーノがいない、多様性のない世界で息子を育てるリスクも背負うということなのだろうか──。そう問いかけても誰も何を聞かれているのかピンとこないようだった。
ほとんどの人にとって、「異なる出自の人が入り混じって共存する社会」は、もはや神話にすぎないのだ。前出のケヴィン・ジェームズも、「自分には白人の友人はいない」と言った。彼らにとって、黒人の町を建設することの目的は生きのびることだ。
サウスカロライナ大学の政治学者トッド・ショーは時代を遡って語る。
「南北戦争の後、南部では、黒人を刑務所に入れて、無償で働かせていました。道に2人でいるだけで黒人を逮捕したりしていたんです。問題意識の高まりはこれまでも周期的に起きてきました。1960年の公民権運動、1965年のワッツ暴動(註:カリフォルニア州ワッツ市の黒人地区で、白人警官が黒人一家を逮捕したことに端を発する暴動)、1992年のロサンゼルス暴動などです。ブラック・ライヴス・マターの運動があれほど急速に燃え上がったのは、人々の気が張り詰めていたからなのでしょう」
たき火で暖をとっていた臨床心理士のタビサ・ホールは、「研究でも、黒人に外部統制型が多いことが示されています」と言う。
ホールが語っているのは、「統制の所在」という概念だ。統制の所在が内側にある「内部統制型」の人は、「自分の運命は自分である程度決められる」と考えるのに対し、統制の所在が外側にある「外部統制型」の人は、「自分の運命は他人に決められる」と考える。
土地を保有し、フリーダムという町の建設するのは、統制を取り戻すことにほかならないというわけだ。前出のトッド・ショーは言う。
「黒人が自分たちの町を建設することは昔からありました。南北戦争の後、ミシシッピ州やテネシー州を逃げた人たちがいたんです。不正がはびこる環境では、自分の空間も、自分の人生も持てませんからね」
フリーダムの町長をめざすアシュレーも言う。
「黒人は奴隷制のせいで経済的に恵まれていません。私たちが政治力を持つには、まず私たちが安心・安全でいられる場所が必要です。そこでお金を稼ぎ、人々が集まってくるようになれば、ここもどんどん変わっていくはずです」
アシュレーは、258万㎡の土地の確保をめざし、土地の共同購入計画を進めている。7~15世帯で構成されるグループがすでに6つできて、共同購入の手続きを開始した。そのほかにも計画に参加を希望する人のメールが1500通届いており、ルネとともに1通ずつ目を通していかなければならない。
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フリーダム建設予定地で2020年9月にキャンプが開催された Photo: The Freedom Georgia Initiative / Facebook

大切なのは場を作り出すこと

黒人コミュニティの建設をサポートする活動を30年以上続けてきたジェームズ・ハリスは、フリーダム建設に燃える人々を優しく見守っている。
「第一のステップは場を作り出すことです。その次のステップは収入の確保です。収入が足りなければ税金が重くのしかかってしまいます。でも、グループの決心と覚悟がしっかりしていれば、必ずうまくいきます」とハリスは言う。
近くにあるトゥームボロという町の住民数は488人。以前はカフェが2軒あったが、いまはどちらも店を閉じた。残るのは公会堂と教会だけだ。この町の住民に話を聞くと、フリーダムの町の建設計画を喜んでいた。
「私たちにとってはいいことです。目新しいですからね」とスーパーマーケットでレジを打つ住民は言う。
湖畔でロッジを経営するジェームズ・ブリッジは、フリーダムの建設計画に何の文句もないと語る。
「でも、あそこで作物を育てようとするのは、どうかと思いますね。あそこにあるのは砂だけ。ハイウェイに花を植えるような話です」
ハリスは笑う。
「いろいろ経験しながら学んでいくんです。大事なのは、黒人の家族に、モデルとなる事例ができることです。いまはニューヨークからも人が減るような時代です。いまよりも快適な暮らしを想像してみるのにぴったりなんです。フリーダムが新しい伝統の始まりになる可能性だってありますよ」