パンデミックはどう終わる - BBC News

★★★:バランスよく議論できる
★★☆:意見を吟味する
★☆☆:客観的情報
☆☆☆:議論用ではない
☆☆☆:議論用ではない
ある特定のオピニオンが述べられる
ある特定のオピニオンが述べられる
いつ登録したか
Oct 12, 2020 11:17 PM
オピニオンが含まれない
オピニオンが含まれない
カテゴリー
両論が併記される
両論が併記される
事実ベース
事実ベース
立体的(多角的)
立体的(多角的)
考察的・思想的
考察的・思想的
複数のオピニオンが含まれる
複数のオピニオンが含まれる
調査、データ、観察的
調査、データ、観察的
notion imagenotion image
今を生きる誰も経験したことのないパンデミックが進行中だ。ワクチンによって一気に問題が解決するよう、世界中で大勢が願っているものの、残念ながら私たちの先祖が闘った感染症の多くが、撲滅されないまま残っている。
過去のパンデミックがどう収束したか見るには、↓へスクロール。私たちの今後がどうなるのか、ヒントが得られるかもしれない。
こちらはジャスミン。
私たちと同じように、ジャスミンの先祖もいくつかのパンデミックを生き延びた。
過去にどういう病気が世界を襲ったか振り返ってみる。
約60世代前のジャスミンの先祖たちは、腺ペストのアウトブレイクを何度か経験した。
ネズミに寄生するノミが媒介するバクテリアや、感染者が放出する飛沫が、大被害をもたらした。

ペスト菌は特定のげっ歯類の間に広がる

ペスト菌は約2000年の間に数億人の命を奪った。
1346~1353年のペストが最悪のアウトブレイクとされている。
註:世界人口は時代と共に大きく増加した。 人口が今より少なかった当時の病気は、 今よりはるかに甚大な影響を社会に与えたと思われる。
リンパ節の腫れを引き起こすこの伝染病は、厳しい隔離と衛生状態の改善などで、最終的に収束したとみられている。
感染拡大を抑制し収束させるには、そもそも病気がどうやって感染するのかを理解しなくてはならなかったと、英インペリアル・コレッジ・ロンドンのスティーヴン・ライリー教授(感染症伝染ダイナミクス専門)は言う。これは現在にも共通する知見だ。
「いったん知識を得て、その知識を共有すれば、感染をずっと少なく抑えるための対策が実施できる」
それでもペストの発生は現代も続いている。たとえば、今年7月には内モンゴル自治区で発生した。理論上は、ジャスミンが感染する可能性もまだあり得る。
ただし現在では被害の規模は小さく、抗生物質で十分な治療が可能だ。
ペストから数百年後、ジャスミンの先祖たちは今度は天然痘に直面する。
天然痘ウイルスが原因のこの病気は、特に多くの人命を奪ってきた。
全身に水疱(すいほう)性の発疹ができる病気で、最も激しいアウトブレイク時には感染者10人中3人が死亡していた。
感染者の鼻や口からの飛沫や発疹から感染する。

天然痘ウイルスは動物では媒介されない

ペストと同様、天然痘は数億人の命を奪った。20世紀だけでも3億人が死亡している。
イギリスの医師エドワード・ジェンナーが1796年に開発したワクチンと、その後の専門家たちの努力によって、今では天然痘ウイルスは完全に撲滅された。ただし、それには200年近くかかった。
こうして人間の努力によって人間がかかる感染症が撲滅できたのは、いまだに天然痘のみ。ライリー教授はこれを、月面着陸に匹敵する人類最高の業績のひとつと呼ぶ。
「これほどの利益を生んだ公共投資はほかにないかもしれない」と、ライリー教授は言う。天然痘がなくなったことで国際社会は莫大なコストを削減できるようになったからだ。
この科学的成果のおかげで、ジャスミンと私たちが天然痘にかかる危険はもうない。
わずか8世代前、ジャスミンの曽々々々々々々々祖父母は、コレラの脅威に直面した。
WHOによると、汚染された食べ物や飲み物が感染源となるこの伝染病のパンデミックは過去7回発生し、数百万人が死亡している。

コレラ菌は汚染された水や食べ物から検出される

欧米では衛生状態の改善によってコレラはほぼ発生しなくなったものの、多くの貧しい国では今なお頻繁に発生し、毎年10万~14万人が死亡する(WHO統計)。
「コレラ対策で大事なのは下水道だ」とライリー教授は言う。「下水処理がうまくいかないと、コレラはあっという間に広がる」。
コレラにはワクチンがあり、治療も比較的簡単だ。しかし、ジャスミンがどこに住んでいるかによっては、まだコレラにかかり死亡する危険がある。
ジャスミンの家族はインフルエンザのパンデミックもたびたび経験してきた。特に被害が大きかったのは20世紀初頭、ジャスミンの曾々祖母父の時代だ。
「スペイン風邪」とも呼ばれる1918年のインフルエンザ・パンデミックは、近年で最も被害が甚大で、全世界で5000万~1億人が亡くなった。
現在の新型コロナウイルスと同様、隔離が感染拡大を抑制した。

H1N1ウイルスがスペイン風邪パンデミックの原因だった

1918年と1920年にかけて感染が2回拡大した後、このH1N1の株は弱毒化し、今も毎年流行している。
註: パンデミックとは異なる季節性インフルエンザ関連の現在の死者数
しかしこの後も他のインフルエンザのパンデミックが続いた。
1968年の「香港風邪」では100万人が亡くなり、今も季節性インフルエンザとして流行を繰り返す。H1N1ウイルスの一種が原因の豚インフルエンザも同様で、2009年に世界人口の約21%が感染した。
インフルエンザには今も「パンデミック化の恐れがある」とライリー教授は言う。ジャスミンも私たちも、インフルエンザのパンデミックを経験するかもしれない。
私たちは季節性インフルエンザにかかる恐れもある。季節性のインフルエンザによる死者は毎年数十万人にもなる。
続いて約40年前、ジャスミンの両親はHIV/エイズの感染が拡大する時代を経験した。パンデミックだと言う意見もあるが、WHOは「世界的な感染拡大」と呼んでいた。
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、体液を通じて伝染する。これまでに世界中で3200万人以上が命を落としている。

HIVは人間の免疫系を攻撃する

HIVは潜伏期間と高い致死率ゆえに、「最悪のシナリオのウイルス」と呼んでもいいと、ライリー教授は言う。感染してもなかなか気付かないため、素早く伝染する。
ただし、診断技術の進歩に加え、世界的な啓発運動によって性行動の変化や薬物利用者の安全な注射利用が広がり、感染拡大は抑制できるようになってきた。
それでも、WHOによると2019年には推定69万人がエイズで死亡した。
HIVを完治する方法はまだないものの、ジャスミンが医療体制の整った国に住み、抗ウイルス薬が使える状態にあるなら、健康で長生きすることができる。
一方でジャスミンが貧しい国に住み、そのような医療へのアクセスがないなら、今なおエイズによるリスクは高い。
notion imagenotion image
さらに2、30年後。ジャスミン自身が生まれた後、SARSやMERSの脅威がやってきた。
重症急性呼吸器症候群(SARS)は、コロナウイルスによる最初の深刻な大規模感染だった。WHOによると2002年から2003年にかけて、800人以上が死亡した。

「SARS-COV」と呼ばれるSARSコロナウイルスは、2003年に特定された

しかし、2003年7月下旬の時点で新しい感染者の報告はなくなり、WHOは世界的な大規模感染は収束したと宣言した。
それから間もなくして、中東呼吸器症候群(MERS)の感染が拡大した。これもコロナウイルスによるもので、912人が死亡した。アラビア半島での感染がほとんどだった。
「MERS-COV」と呼ばれるウイルスに、たとえばイギリスで感染するリスクは非常に少ないものの、中東で感染する確率は今も高い。人間は多くの場合、ラクダから感染する。
つまり、ジャスミンがMERSに感染する可能性はあるが、ほとんどの国でそのリスクは少ない。
ジャスミンと私たちが生きている今のこの時代、私たちは新しいSARSコロナウイルスに直面している。この新型コロナウイルスが、COVID-19という感染症を引き起こす。
「SARS-COV-2」と呼ばれるこのウイルスは、2013年SARSウイルスの進化形。症状が軽いものから死に至るものまで多岐にわたることや、未発症の人の感染性が高いことなどから、伝染病の専門家たちから特異なウイルスとみなされている。
「多くの地域で抑制に失敗しているのはそのためだ」と、ライリー博士は言う。

「SARS-COV-2」ウイルスは、2003年のSARSウイルスと関連する

すでに100万人以上が亡くなったが、被害の全体像はさらにひどくなる見通し
ワクチンや効果的な治療法を探す研究は続くものの、世界の大多数の人にとって感染リスクは続く。ジャスミンも私たちも、今なお危険にさらされている。

次はどうなる

今の社会で活動する新型コロナウイルスは、ウイルスや細菌といった新しい病原体が長年にわたり引き起こしてきた様々なパンデミックの、最新の形だ。
註:世界人口は時代と共に大きく増加した。 人口が今より少なかった当時の病気は、 今よりはるかに甚大な影響を社会に与えたと思われる。
感染の仕組みについての知識向上や公衆衛生の啓蒙活動、新しい治療法やワクチンの開発などが、過去のパンデミックを終わらせてきた。
現在のパンデミック収束も、おそらく複数の要因が重なっての結果になるだろう。
notion imagenotion image
「安全で、きわめて効果的」なワクチンによって収束するかもしれないが、そのようなワクチンが見つかると決まっているわけではないと、ライリー教授は言う。
むしろ、COVID-19に対して一定の抵抗力を獲得しつつ、共存する方法を見つける必要があるかもしれない。
「5年以内には確実に、できればそれよりもっと早くに、本当に効果的で世界中で使われるワクチンが見つかるか、あるいは何とかやり過ごしたおかげで十分な免疫を獲得したか、どちらにしろ小規模の集団発生の再発にも耐えられるようになっているだろう」と、ライリー教授は将来を見通す。
天然痘の撲滅からも分かるように、世界中の科学者が団結すれば、目覚しい成果が期待できる。
新型コロナウイルスは、未発症者からの感染が非常に多いため、従来の感染症に比べて対応が厄介だ。しかし解決法を求める「素晴らしい」世界的な取り組みが最終的には成果をもたらすと、ライリー教授は楽観している。
「世界全体でこのようなプロジェクトに共同で携わるのは、これが初めてだ。いずれかの時点で世界が成功を共有できるようになる時対する」と、ライリー教授は話す。
ただし、過去のパンデミックで人間社会を脅かした病原体のほとんどは、まだ居座っている。これは忘れないほうがいい。個々のパンデミックは収束しても、ウイルスやバクテリアや、それによる感染症はまだ残存している。

製作

ルーシー・ロジャース、デビー・ロワゾー、リリー・ハイン、カトリオーナ・モリソン、ベッキー・ラッシュ。
歴史上のパンデミックについて教示してくださったインペリアル・コレッジ・ロンドンのスティーヴン・ライリー教授、ならびにWHOに感謝します。