反ワクチン記事についてのnoteの方針

★★★:バランスよく議論できる
★★☆:意見を吟味する
★☆☆:客観的情報
☆☆☆:議論用ではない
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ある特定のオピニオンが述べられる
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May 9, 2019 12:34 AM
オピニオンが含まれない
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両論が併記される
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事実ベース
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立体的(多角的)
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考察的・思想的
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複数のオピニオンが含まれる
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調査、データ、観察的
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Photo by peishum
noteが運営方針として、反ワクチン記事などをどう扱っていくかについて。
先日、TwitterとFacebookが、SNS上での反ワクチン言論への対策を始めました。これは、米国におけるはしかの再流行騒動に対応しての流れだと思われます。
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よい機会なので、反ワクチンやフェイクニュースに対して、僕たちもいったんスタンスを明確にする時期かなと考えています。現状はnote公式というよりは、「CEOやCXOがどう考えているか」です。まもなく、公式の意思決定も定まるでしょう。

noteにおける反ワクチン情報の現状

歴史的な経緯として、noteチームはワクチンの正しい普及運動を応援しています。子宮頸がんワクチンの啓蒙活動をされ、『10万個の子宮-あの激しいけいれんは子宮頸がんワクチンの副反応なのか』を出版した村中璃子さんも、noteを利用しており、彼女の書いたnoteは大きく話題となり、新聞の論調を変えるにいたっています。
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Riko MuranakaThe John Maddox Prize Speech2017.11.30, London世界では毎年、53万人が子宮頸がんと診断され、27万の命が失われている。現在では子宮頸がんを防ぐワクチンがあり、世界130カ国以上で使われているというのに。 しかし、近い将来、ワクチン接種率…
本件は、noteのクリエイターサクセスにおける、最大の成功事例のひとつです。国内のワクチン推奨の大きなうねりのそのものがnote(の村中璃子さんの記事)起点としていたわけです。このような経緯もあり、自分を含めnoteチームの結構なメンバーが、私的にはワクチン啓蒙運動を応援しています。
結果、noteユーザー全体においても、反ワクチンの動きはマイノリティです。いくつか記事は存在するものの、大きくバズったものは観測されていません。

反ワクチンへの対処と、その課題

このように、私的にはチームはワクチン推奨ですが、組織としては課題もあります。それはnoteが「思想と言論のプラットフォームである」ということです。
医療関係者がエビデンスのない情報を非難するのは、正しい行いです。また国家が、公衆衛生や治安を揺るがす情報を排除するのも(程度の問題や是非はあれ)当然のことと思われます。
ですが、言論プラットフォームは同時に、「表現の自由を守らなけばいけない」という、より大きいミッションを抱えています。巨視的な視点でみれば、(賛否はあれど)、個々の記事や事件よりも、「ネット全体の表現の自由を担保すること」の優先度を高くすべき立場なわけです。
間違った情報、過激な意見、他者を侵害する意見などは、拡散を予防しなければいけない一方で、ギリギリまで言論の自由として守らなければいけない。そういったバランスを勘案していくと、リベラルやポリティカルコレクトも排他主義や差別主義なども、取り締まるものでありながら、同時にある程度は守らなければいけないわけですね。
「『ヤバイ記事は処する』『言論の自由も守る』「両方」やらなくっちゃならないってのがnoteのつらいところです。

noteは、どのような基準をとるべきか

そういったバランスをどのように置くべきか。正直をいえば、答えはまだ定まっていません。おそらく、永久に答えは出ない問題であり、自問し続けることアップデートをし続けることが大事なのだと思います。
個人的には、このような問題は「統計」として処理するのが一番中立的だと思っています。つまり下品なものも、悪意のあるものも、それが全体比率の一定パーセント以下のレンジであり、安定しているならば、相対として「健全」であると考えるべきなのでしょう。
医療で言うならば、がんやインフルエンザは発見すれば治療しなければなりません。ですが巨視的視点でみれば、一定比率で発生すること自体は自然な生命の営みなわけです。過激言論や危険思想も、そのような比率や統計処理で判断することが、もっとも妥当な方策かと思います。
存在を0にするのではなく、それが人の命や尊厳を傷つけることのないよう、一定比率以下に収まることに焦点を置くこと。言論の多様性とバランスを維持することが大事なわけですね。
そういうことを考えながら、反ワクチン情報に対して、まずは以下のような5つのパターンを立案してみました。

Plan A: グレーな言論を完全に排除する。

疑わしきは焼く。魔女裁判、共産政権スタイルです。治安は保たれる一方で、表現の自由は大いに侵害されます。またソクラテスやガリレオのような、(現在は間違っていると判断されるが実は合っていた)といった言論や思想、ユーザーはすべて焼かれることになる。また多様性を大きく毀損します。

Plan B: 全ての怪しい記事に専門家レビューを入れる

完全専門家レビュー制度。Facebook, Googleクラスの会社規模でもできないことなので、実現可能性が低い。こちらもパラダイムを超えた多様性を毀損します。

Plan C: 全ての怪しい記事に人工知能チェックを入れる

完全AI統治。Facebook, Googleクラスでもできないことのため、実現可能性が低い。AIの偏見問題は、GAFAクラスでも未解決のため、POCの能力でやることは難しい。

Plan D: 基本は様子見。トラフィックの多いものには何かしらの対処を行う

そもそも「間違った知識の再生産」を防ぐ目的なら、トラフィックや参照数の多い記事に対してのみ処置を行う。珍情報やマイナ情報に止まるのならば、エルヴィスが火星に行こうが、水に挨拶をすると味が美味しくなろうが、表現の自由として許容すべきであるわけです。一方で、それが教科書にのるようなことは、阻止しなければなりません。(医療情報に関しては、生死がかかわるので、同方針で基準をもうちょっとキツくします)。

Plan E: フェイク情報よりも表現の自由を優先する

ココアやキノコよりも、天動説や無神論などが封殺されるリスクを重く見る。巨視的な視点の奉仕者としてはありですが、個々の事例ではわりと悲劇が発生しそうです。
こういったことを比較してくと、どうやら暫定の政策としては、Plan D「基本は様子見。トラフィックの多いものには何かしらの対処を行う 」周辺が妥当そうです。もろもろを勘案して、現状は以下のようなスタンスをとります。
現状方針・一定の流入の集めている潜在的に危険な記事には、個別に対処を検討・対処は「誤情報、悪意、犯罪の再生産・拡散」など重大なものに限る。・不快・下品といったレベルなら、表現の自由や法律が優先される。・まずは、シャドーバン(非検索ヒット)などから検討する。個別の記事そのものは、できるかぎり表現の自由を守る・厳密な審査基準については、抜け道を塞ぐためにブラックボックス化・個別の記事への見解表明は、緊急性がない限り原則として行わない・将来的には、特定テーマの記事、特定ワードの検索結果に補足表示を出すことを検討する。・将来的には、アルゴリズムによるゾーニングを適用していく。

まとめ

このように危険な思想・情報の封殺と、表現の自由・多様性の担保はトレードオフの関係にあります。
「XXX人は世界でもっとも優れた民族である」とか「世界は神が作りたもうたので、進化論は間違っている」というのは、言論の自由なのか? それとも個人の思想や信仰の表明なのか?というのは、とても大事な議論です。
この問題に関しては、「全員がハッピーになる答えはありません」。どのような政策をとるにしても、かならず救われない人、不満のある人、納得のできない人が発生するでしょう。フェイク情報と戦うことが大事な一方で、正義の顔をしながら文字を焼く人々との戦いも大事です。
ベストな答えが見つかるのは、年単位になるかとは思いますが、色々と心が折れないように頑張りたい所存です。
noteチームではこのような判断をしているわけですが。みなさんも考えてみてください。