未来のための金曜日 ──グレタ・トゥーンべリ16歳、大人に「おとしまえ」を求めてストライキ | WIRED.jp

★★★:バランスよく議論できる
★★☆:意見を吟味する
★☆☆:客観的情報
☆☆☆:議論用ではない
☆☆☆:議論用ではない
ある特定のオピニオンが述べられる
ある特定のオピニオンが述べられる
いつ登録したか
Sep 29, 2019 03:15 AM
オピニオンが含まれない
オピニオンが含まれない
カテゴリー
両論が併記される
両論が併記される
事実ベース
事実ベース
立体的(多角的)
立体的(多角的)
考察的・思想的
考察的・思想的
複数のオピニオンが含まれる
複数のオピニオンが含まれる
調査、データ、観察的
調査、データ、観察的
グレタ・トゥーンベリがInstagramアプリをダウンロードしたのは、2018年6月のことだった。スウェーデンに住む彼女が最初に投稿したのは、飼っている救助犬ロキシーと自分の写真だ。Instagramで写真を公開する15歳の少女としては、ごくありふれた内容である。それでも、自家栽培のトマトや草原や湖を写した写真には、自然に対するトゥーンベリの熱意が垣間見えていた。事実、その1カ月前に、スウェーデンの日刊紙Svenska Dagbladetが主催した気候変動に関するエッセイコンテストで、彼女の作品が最優秀賞に選ばれている。
「わたしが望むのは、安全だという気持ちでいられることです」と彼女は書いている。「人類史上最悪の危機にあると知っていて、どうすればそんな気持ちでいられるというのでしょう?」。気候への負荷を減らすため、トゥーンベリは12歳で肉を食べるのをやめ、飛行機に乗るのをやめた。地球温暖化に対する不安が一因でうつ状態となり、学校に行かない時期もあった。18年の夏、スウェーデンに熱波と森林火災が拡がったときにも、強い危機感に苦しんだ。
18年8月20日、トゥーンベリはスウェーデンの国会議事堂の前に座る自分の写真を投稿している。「わたしたち子どもはたいてい、大人に『こうしろ』と言われて動くのではなく、大人と同じ行動をするだけです。そして大人は、子どもの未来を全然配慮していない。だったらわたしも遠慮なんかしません」。そうキャプションをつけた写真の彼女の足元には、ポイ捨てされたたばこの吸殻。手製のプラカードには、「Skolstrejk för klimatet(気候のための学校ストライキ)」と書かれている。気候変動に対する政府の無策への抗議として、18年9月9日のスウェーデン総選挙まで登校を拒否するのが彼女の計画だった。
「座り込みでメディアの関心を集め、気候変動の危機が話題になるようにしたいと考えていました。でも、期間が終わった時点でこう思ったんです。どうしてここでやめるの?って」。選挙後のトゥーンベリは学校に戻った。ただし登校は週4日。毎週金曜日はストライキを続行している。こうして「#FridaysForFuture(未来のための金曜日)」というムーヴメントが誕生した。
notion imagenotion image
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、18年10月8日に悲惨な見解を発表している。地球温暖化を産業革命前の水準から平均1.5℃上昇までに抑えられなければ、森林火災、洪水、大規模な食糧不足が発生する可能性が高いというのだ。
IPCC共同議長ジム・スキーは、「1.5℃の壁を越えるのは早くても2030年」という言い方をした。メディアはこれを受けて「地球を救うのに残された時間は12年だ」と報じているが、スキーいわくIPCCの報告書があくまで述べているのは、1.5℃の地球温暖化が進むのは2030年から2052年の間のどこかだということだ。
そうなれば穀物生産も家畜の飼育も気温上昇による影響を受け、食糧不足と貧困につながる。スキーは「IPCCはアドヴォカシー団体ではないので、地球温暖化の特定の水準に対して是非を言うことはない。温暖化がもたらす影響は明示できるが、具体的な提言はしない」と述べている。そうは言っても、取り返しのつかない気候破綻を防ぐためには、早急に行動を起こさねばならない。科学者は自分たちの知見に「ただし」や「おそらく」をちりばめるが、16歳となった少女はオブラートに包んだ物言いをする気などなかった。
10月20日、トゥーンベリは、ヘルシンキに集まった1万人の前でスピーチをしている。グリーンピース、世界自然保護基金(WWF)、そしてヘルシンキ大学学生連盟が組織した気候変動阻止を訴えるデモ行進の参加者たちが彼女の話に耳を傾けた。11月24日にはTEDxStockholmに登壇している。このころには彼女が始めた学校ストライキが国外にも波及し、子どもらが「#FridaysForFuture」というハッシュタグを使って活動を拡げだしていた。
そして18年12月、トゥーンベリは国連気候変動会議に登壇し、世界のリーダーたちを前に、「このテーマについて真実を語ることのできないあなたがたは、果たして大人と言えるのでしょうか」と突き付けた。ニュースメディアのBrut UKが、Facebookにこの動画をアップロードし、当時980万人以上が視聴した。さらに19年1月22日、彼女はダヴォス会議にも登壇している。世界中から集まった各方面のリーダーたちに向かって、あなたがたはもっと慌てるべきだと言い切った。そして「わたしたちの家が燃えているのです」と表現している。
「人生は黒か白かでは決められない、とあなたがたは言いますが、それはうそです。とても危険なうそです。1.5℃の地球温暖化を防ぐのか防がないのか、という問題なのです。人の手に負えない連鎖反応が待ったなしで始まるのを回避するのか、しないのか、という問題なのです」
19年3月15日の金曜日には、125カ国で2,000件の抗議運動が起き、100万人以上の児童や学生らが参加した。第1回の「未来のための世界気候ストライキ」だ。最初のストライキから7カ月でトゥーンベリのInstagramのフォロワーは110万人、Twitterフォロワーは40万人となり、彼女はクライメートアクションの旗振り役となったのだ。
本人いわく、彼女はもともと内向的なタイプだ。「ソーシャルメディアがなかったらうまくいかなかったと思います」と話している。「わたしはただ座って学校ストライキをしてただけ。それがいまでは何百万人に届いてるなんて」
世界中で膨大な数の子どもに行動を促している彼女だが、自分の学校では周囲とそれほど口をきかない。2年ほど前、彼女は場面緘黙症と診断された。特定の場所で喋れなくなる不安障害のことだ。「注目の的になってるのはつらいときもあります。でも、人がわたしのことを話すなら、気候のことも必ず話題にしてるはずですよね」
1対1で話をするときも、世界の権力者たちに訴えるときも、トゥーンベリはまったく同じ喋り方をする。率直で淡々としていて、説得力がある。彼女は4年前にアスペルガー症候群と診断されたが、気候について単刀直入に語るにあたり、その特性は「スーパーパワー」だと考えている。彼女が唯一、答えるまで5秒考え込んだのは、「有名人になったっていう気持ちがしますか?」という質問だ。「そういうふうには思えないんです……別に、わたしが何をしたってわけでもないですから」
彼女がそう答えた直後に、ひとりの中年男性が現れ、自分も飛行機に乗るのはやめたと話しかけた。そのすぐあとには中年女性が握手とセルフィーを求めてきて、また別の観光客は手帳にサインをねだった。スウェーデン人の子どもたちは、自分たちが抱く懸念について話しかける。ひとりは、ぎっしりメモを書いた付箋4枚を握りしめて、別のひとりは、「海洋の生態系にプラスティックはいらない」と書かれたポスターをひらめかせている。
そのあとも小学生の集団がやってきて、ストライキを拍手で盛り上げた。ひとりが掲げるポスターには、「ストップ地球温暖化」と書いてあり、がりがりに痩せたホッキョクグマが、「気候変動なんて起きてないって?そりゃよかった」と言っている。
ストックホルムに住む16歳のマリーンと、18歳のアストリッドはこれで3週連続の参加だという。「グレタはすごいリーダーだよ。誰かが先にいてくれると、わたしも自分の言いたいことを言っても大丈夫だって気がする」とマリーン。
その近くにいたエスターという少女も16歳だ。彼女の学校からストライキに来ているのはひとりだけだという。「みんなが来ない大きな理由は情報不足だと思う」とエスターは話した。
「学校は気候変動について教えるけど、起こるかもしれないって言い方をするの。だから、いますぐ行動を起こさなきゃならないんだってことをはっきりさせる必要がある。仮説の世界で起きることじゃなく、この世界で起きてることで、わたしたち全員に影響があるんだから」
この日のストライキに加わった最年少メンバーは5歳の坊やだ。カラフルなペンで彼なりのメッセージを記した紙を持っている。その親子は電車で4時間かけてトゥーンベリに会いに来た。息子が描いたメッセージの意味は「木を切らないで。1週間に2本だけにして」ということらしい。
5歳児から50歳まで、大勢の人々がトゥーンベリに刺激を受けていることは間違いない。「ぼくたちの望みは?」と、ストライキに加わった子どもらの間から自然とシュプレヒコールが始まった。「気候を守ること!」。いつそれを望むかと言えば、「いま!いま!いま!」
notion imagenotion image
クリスティーヌ・ラガルドと握手するトゥーンベリ。ダヴォス会議でスピーチ(2019/01)。AP / AFLO
notion imagenotion image
notion imagenotion image
notion imagenotion image
notion imagenotion image
notion imagenotion image
notion imagenotion image
notion imagenotion image
環境の未来(もしくはその残骸)を体験するのは子どもたち自身にほかならない。Green Hope Foundationの設立者で世界未来協議会のメンバーでもあり、国連環境計画のコーディネーターも務めた18歳のカシュカシャン・バスーは、「初めてのクライメートアクションは、8歳の誕生日にプレゼントでもらったお金で1本の木を植えたことです」と語る。「その日以来さまざまな国で、15,000本以上の植樹活動に携わりました」
彼女は8歳で活動家になった。おなかがプラスティックでいっぱいになって死んだ鳥の写真をTVで見たのがきっかけだ。鳥が感じたであろう激しい苦しみを思うと頭が真っ白になり、彼女は近隣地域で「ノープラスティック」運動を組織することにした。12歳のときには、住んでいたドバイの街でGreen Hope Foundationを立ち上げた。「ひと握りの友人とスタートしたものが、12カ国で1,000人以上が働くソーシャルエンタープライズになりました」。海岸を掃除し、植樹を行ない、生き物の生息環境を保護し、地球温暖化についてスピーチやプレゼンをするのが若きメンバーの仕事だ。
バスーはその後カナダに引っ越した。カナダにも有名な若手環境活動家がいる。16年のファーストネーションズ総会〔訳注:カナダの先住民族が集まる会議〕では、オータム・ペルティエという少女がカナダ首相ジャスティン・トルドーに対し、石油パイプライン建設計画への反対意見を突き付けている。当時12歳だった彼女は、トランス・マウンテン・パイプラインの拡張計画をカナダ首相が承認したことなどに言及し、「あなたの選択をとても不快に思います」と言い切った。拡張計画が実現すれば守るべき自然に980kmのパイプが延び、ブリティッシュコロンビア州にあるファンデフカ海峡などの水源で石油流出の危険性も生じるからだ。
14歳になったペルティエは「子どもが発信するメッセージはいちばんインパクトがあると思います。わたしたちは未来の世代で、未来のリーダーなのですから」と語る。彼女はオンタリオ州のマニトゥーリン島のファーストネーション居留地、ウィクウェミコンの出身だ。一族の人々はペルティエのアドヴォカシー活動にちなんで、彼女を「水の戦士」と呼ぶ。18年3月の国連総会で、ペルティエは「戦士として立ち上がれ」と呼びかけ、世界の水質汚染を止めるよう訴えた。「わたしの世代は気づき始めています。大人たちがこの惑星をどう扱っているか」と彼女は言った。「多くの子どもが地球や未来のことを不安に感じているのです。わたしたちはいま、みんなで立ち上がっています」
19年4月21日、2日の電車移動の末にトゥーンベリはロンドンに到着した。彼女が初めてイギリスの公の場で行なうスピーチを聞こうと、ユーストンロード沿いに長蛇の列ができた。ロンドンでは1週間ほど前に、「気候のために立ち上がる若者のストライキ」という抗議運動が市内の交通機関をマヒさせている。このデモでは、プラカードを掲げた子どもらがダウニングストリートを行進し、「テリーザ・メイよ、わたしたちの声を聞け、気候変動は目の前の問題だ!」とシュプレヒコールを上げた。
2日後、トゥーンベリは英国議会で議員たちを前にスピーチをした。「みなさんの多くは、わたしたちの意見など聞きたくもないということはわかっています。ただの子どもじゃないか、とあなたがたは思っているのです」。
メイ首相(当時)は2カ月前に、学校ストライキは教職員の時間を浪費させていると非難し、学校へ戻れと強く呼びかけた。「あなたがたが科学に耳を傾け、わたしたち子どもの未来を確保するというのなら、わたしたちはすぐにでも学校に戻ります。これは、そんなに法外な頼み事でしょうか?」
議会に出席する前にトゥーンベリはイギリスの主要な政治家たちと面会している。キャロライン・ルーカス議員は「グレタと対面し、気候危機の規模と緊急性について政治家に真実を語る彼女の声を聞いたのは、本当に刺激的なことでした。この訴えに反応できない政治家には、歴史によって厳しい判決が下されることでしょう」と語っている。
子どもたちの運動が、すでに世界のリーダーたちに変革を迫っているのは明らかだ。19年2月には、ベルギーの環境相が学生の運動を「(大人に)お膳立てされている」と発言し、抗議する学生たちによって辞職に追い込まれた。同じく2月にアメリカでは、カリフォルニア州のある上院議員がグリーンニューディールを求める子ども活動家に向き合おうとしなかったことで批判を浴びている。
ベルギーにおける学校ストライキ運動の事実上のリーダー、アヌーナ・デウェーフェルは、「学校に戻りなさいと大人に言われると、わたしたちのメッセージを理解してくれていないんだなと感じます」と語る。「わたしたちは、生存の危機に直面しているという切迫したメッセージを伝えているんです。いま行動しなければ、文字通り未来はありません。わたしたちは、実際にこの世界を救うことのできる最後の世代なんです」
ソーシャルメディアでは、罪悪感を和らげたくて「いいね」をクリックするフォロワーも多い。そうした場所での運動に限界はないのだろうかと尋ねると、トゥーンベリは「わたしの活動を支持してくれているのなら、その人に良心があることは間違いないって思います」と答えた。「わたしをフォローする全員が何か行動を起こせば、この世界はきっと大きく変わっていくはずです」
Zero Hourのマーゴリンは、「あなたには刺激を受けるわって言いながら、自分では何もしないのは気持ちの悪いことだと思います」と述べる。「世界のリーダーたちは、きみたちが世界を変えていくんだね、と言います。わたしたち子どもは、あなたがいまやっているひどい行為を中止して、と訴えているのに」
トゥーンベリも同意見だ。「大勢の政治家たちが、気候変動の危機をどう解消するか訊いてきました。それっておかしいと思います。解決策があるとか決定権をもちたいとかそういう理由でストライキをしてるんじゃないのに。ただ言わなきゃいけないことがあるんです。子どもなんだから、わたしたちがこの問題を解決するのは不可能です。かといって、大人になって責任者になれるまで待つわけにもいきません。そのときにはもう手遅れだからです」
英国議会でのスピーチでも、彼女は決して楽観的なことは語らなかった。ストライキ活動が功を奏しているとはいえ、温室効果ガスの排出量の曲線はいまだに右肩上がりであると指摘する。
批判派もいる一方で多くの政治家や業界リーダーなどが「#FridaysForFuture」のストライキを支持している。ドイツのアンゲラ・メルケル首相は抗議運動の参加者を歓迎する旨を表明した。ノルウェーの社会主義左翼党のフレディ・アンドレ・オフステゴール議員は、トゥーンベリをノーベル平和賞に推薦し、「この新しい運動を認め、変化を求める勢いをいっそう高めていかねばならない」と語っている。
また、19年3月には12,000人以上の科学者が、若者の抗議運動に賛同する文書に署名をした。気候学者のビル・マッキベンは「彼女たちには、倫理的な面で強い発言権がある。この気候変動とともに生きていかねばならないのは彼女たちの世代なのだから」と述べた。「彼女たちには、わたしたちに行動を起こすよう要求する権利がある。多くの人がその声に応える道を選ぶでしょう」。