コロナ時代の今こそ「ロボットは人間の仕事を奪うのか」という問いと向き合おう | 日本のロボットメーカーの輸出増が指し示す未来とは? | クーリエ・ジャポン

★★★:バランスよく議論できる
★★☆:意見を吟味する
★☆☆:客観的情報
☆☆☆:議論用ではない
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May 25, 2020 07:58 AM
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並んでラジオ体操をする早朝シフトのロボットたち? Photo: Visual China Group / Getty Images
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックのなかで、「ソーシャルディスタンス」を維持しながらどう生産活動を再開していくかが世界中で課題だ。そんないまこそ、これまでぼんやり議論されてきた「ロボットは人間の仕事を奪うのか」という問題と正面から向き合うべきではないだろうか。

「人間こそがリスク」

「ロボットは人間の仕事を奪うか」という議論に相応しいときがあるとすれば、それはいまかもしれない。それは、ただ工場主がかさむ人件費を払いたくないからではない。労働者が、ペトリ皿で培養されるウイルスのごとく毎日集まりたくないからだ。
中国の製造業は従業員が生産ラインに戻って以来、ある課題に直面している。すなわち、どう従業員に従業し続けてもらうかだ。3月に経済が再開しはじめたあと、離職率が90%になったという企業もある。コロナ危機以前の例年なら、離職率は25〜30%だ。
ロックダウンが緩和されるにつれ、世界中でそうした離職率の急増が見込まれる。今回のパンデミックによって、サプライチェーンの「継続運転にとって人間こそがリスク」になったと「サンフォード・C・バーンスタイン」社のアナリストたちは述べている。

日本のロボットメーカーに注文増

ビジネスをどう再開するかはともかくとして、もっと大きな問題は、各企業が工場の将来をどう考えていくかだ。ここで再び話に入ってくるのがロボット、より正確には自動化の問題だ──すでに労働者保護団体を警戒させ、新型コロナウイルスによって追い打ちをかけられるだろう流れだ。
「ファナック」「キーエンス」「ハーモニック・ドライブ・システムズ」といった業界最大手の注文控元帳に現れた兆しは、企業がますます、人間抜きで稼働したがっていることを示している。自動化機械の中心地である日本からの産業ロボット輸出先は、昨年より増えている。
「アップル」から「アマゾン」まで幅広い企業の工場で使われるロボットのメーカーであるファナックの受注数は、3月までの第4四半期で、第3四半期から7%上がった。アメリカと中国での収益は上がり、部品在庫は需要上昇でひっ迫した。
小型ロボット部品メーカーのハーモニック・ドライブでも予約注文が増えた。世界が新型コロナの最初の衝撃波に圧倒されていた渦中での話だ。この関心の高まりは、自動化の優先順位がいかに高いものになったかを示している。

世界の製造業の6割は自動化できる

ロボットが働く余地はある。世界中で「ロボット密度」は低いままだ。企業の多くがロボットを稼働に組み込むという政治的に微妙な動きによって社会的反発を受けたくないからだ。それでも、世界中の製造業の60%近くは、容易に自動化できる領域にある。中国では、全職種のほぼ40%が機械で代替できる。
とはいえ自動化が及ぼす産業間、産業内での影響の違いは重要だ。たとえば、自動車工場では、ロボットがプレス加工と溶接の大半を担い、人間が最終検査をする。ある程度の器用さが求められる仕事は、あいかわらず機械向きでない。
新型コロナ時代の大きな変化は、自動化採用のハードルが下がることかもしれない。韓国とドイツはその意味で、良い手本となりうる。高度な工場自動化を達成しつつ、低失業率を維持しているからだ。
だが、より直接的な後押しになるのは、単にそれが必要だからということかもしれない。それが、私たちの技術の使い方に大きな変化をもたらしてきたのだ。
この地球規模の緊急事態により、企業はほぼ想定外の形で機能不全に陥っている。「プライスウォーターハウスクーパース」が企業のCFO約300人を対象に実施した調査の結果、CFOたちは意思決定に必要な情報を得られず、対応も遅れたことがわかった。
自動化が進めば、機敏性は向上しうる。調査を受けたメーカーCFOの大半は投資を取りやめるか先送りするつもりだが、自動化、人工知能、産業IoTへの投資を削減するつもりだという回答者は15%しかいなかった。

生産性向上と雇用喪失の問題

コロナ後のジレンマは旧来どおりのように見えるが、さらにひどい。世界はより生産性を必要とし、そして自動化がそれを得る一手なのだ。ドイツではロボット配備により、1人当たりのGDPがこの10年間で0.5%増えた。だが、行き場のない非熟練労働者はどうなるのか?
国際労働機関(ILO)によれば、このパンデミックで世界中の労働時間は6.7%減る可能性がある。そうなれば、フルタイムで働く1億9500万人が失職するに等しい。
目下、各国政府は企業に賃金助成金を出し、雇用を維持してもらおうとしている。だが、雇用維持のためには、労働者を再教育・再調整する負担もやがて企業に降りかかってくるだろう。
それとは別に、諸国政府はロボット型の未来への移行を奨励している。日本は、サプライチェーンを中国から帰還させたがっている。熟練労働者が足りないところでは、コラボする機械、いわゆる「コボット(Cobot)」がもっと必要になるだろう。
中国では、自動化をサポートする産業助成がますます増えている。「新しいインフラ」の名の下に財政刺激策が正当化され、5Gなどの技術に何十億もの大金がつぎ込まれている。そうした技術によって、雇用はますます減るだろう。

いずれにせよ仕事の未来は変わっているのだから…

だからといって、人間の労働による生産は終焉を迎える、あるいはいっせいに失業が起こるということではない。ただし、人員に加える、また人員を超える選択肢を検討するオープンさがより求められるのだ。
現実は、自動化プロセスにいま投資している企業のほうが、より速く、そしてより力強く抜きん出る可能性が高いということだ。それはロボットが病気にならないからとか、「ペトリ皿」みたいなところを怖がらないからではない。仕事の未来が変わっているからだ。
それが「コロナ実験」で試されるなど、誰も望んではいなかった。だが、企業も人もその事実と折り合いをつけるしかないのだ。