新型コロナ“強硬対策”を取らないスウェーデン「国民の責任感と自制心」が鍵 | 凶と出るか、吉と出るか | クーリエ・ジャポン

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Mar 31, 2020 11:39 PM
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スウェーデンも観光客で賑わう通りは閑散 Photo Mikael Sjoberg / Bloomberg / Getty Images
世界中で新型コロナ感染拡大が報じられる中、連休に花見をする多くの日本人の姿が報道され「なぜ、日本だけ……?」と、各国から疑問の声があがった。北欧にも「なぜ?」と言われる国がある。スウェーデンだ。周辺諸国が厳しい制限措置を取る中、ここは“ゆるい”。
ただ、それが正解どうかはわからない。さらに、この方法が取られているのは政府と国民の圧倒的な信頼関係があるからこそ──。米紙「ニューヨーク・タイムズ」が伝えた。
新型コロナウイルスがスカンジナビア諸国に広がり始めたとき、ノルウェーとデンマークは感染拡大を食い止めるために、緊急措置として国境を大規模に制限した。しかし、隣国のスウェーデンの国境は開いたままだ。
また、ノルウェーとデンマークは、国境のほかにも、レストラン、スキー場を閉じて、すべての学校を3月いっぱい休校とした。かたやスウェーデンの高校と大学は休校だが、幼稚園、小学校はそのままだ。パブ、レストランも開いている。
スウェーデンのアプローチは、治療法もワクチンもないパンデミックとのギャンブルなのか、それとも、前例のない世界的なロックダウンをもたらしている疫病と戦い、何百万もの雇用を無駄にしないしい賢明な戦略となるのか──。

「スウェーデンはなぜコロナ危機を深刻に受け止めないのか?」

3月28日、ノルウェー(人口530万人)では3770件以上の感染と19人の死者(3月31日感染者4102人、死者22人)、デンマーク(人口560万人)では2200件以上の感染と52人の死者(3月31日、感染者2395人、死者73人)、スウェーデン(人口1012万人)では3060件以上の感染と105人の死者(3月31日感染者3700人、死者110人)が報告されている。
デンマークの新聞「ポリティケン」に、近頃、こんな見出しが躍った。「スウェーデンはなぜコロナ危機を深刻に受け止めないのか?」。これはまさにヨーロッパ中が疑問に思っていることだ。
しかし、スウェーデンが世界中で猛威をふるう感染病の重大さを軽視しているわけではない。国の指導者と保健当局は、手洗い、社会的距離の確保の徹底を促し、70歳以上の人との接触を制限、高齢者を保護することを強調している。
だが、首都ストックホルムのカフェを覗いてみると、2人以上のグループが気軽に食事をしたり、カプチーノを楽しんだりしている姿が見られ、公園では、走ったり、叫んだりしている子供たちを数多く見かける。レストラン、ジム、モール、スキー場などは制限されてはいるものの、営業を続けている。
同国の疫学者アンダース・テグネルはインタビューで、スウェーデンのこの戦略は科学的根拠に基づいていると話す。「私たちは、病院が患者に対応できる程度に感染拡大のペースを遅らせるよう努力をしています」
テグネルは続ける。スウェーデンのやり方は「国民の自制心とそれぞれの責任感に訴えかけている」のだと。
「それがスウェーデンのやり方です。私たちの国の感染症対策のシステムは、自発的な行動に基づいています。予防接種は完全に自主的なものですが、98%が受けています」とテゲルは説明する。
「国民がその生活の中で最善の方法を選択できるようにしているのです。経験上、これはとてもうまくいっています」

「禁止」ではなく「信頼」

スウェーデンが現状とっている方法は他国の厳しい対策の真逆をいく。インドは13億人に影響を与える封鎖を試み、ドイツでは、家族を除き、2人以上集まることを禁止している。フランスでは、外出する度に、外出許可書に記入しなければならず、イギリスでは、警察官が家にいるように注意を促す。
しかし、スウェーデン独自のこの方法について判断するには早計だ。新型コロナによる入院は増加しており、スウェーデン当局がより強力な対策を講じる可能性はある。
現状のスウェーデンの戦略を説明する上で、専門家は根本的な要因を指摘する。歴史学者のラース・トラガルドによると、スウェーデン政府は国民からの信頼が高く、憲法により、政府が保健所などの行政機関の業務に口出しすることは厳格に禁じられている。
「つまり、禁止事項や制裁、罰金、懲役などによって、行動を規制されたり、コントロールされることがないのです」とトラガルドは電話インタビューで答えた。「それがスウェーデンがデンマークやノルウェーとは一線を画している理由です」
政府は、3月28日の時点では、これまで60万人以上に感染し、世界中で27000人以上が死亡している新型コロナウイルスについての勧告を出していない。しかし、保健省が、国境を閉じ、社会をシャットダウンすることが最善の方法だと言うならば、政府はおそらく耳を傾けるだろう。
トラガルドによると、スウェーデン人の高い信頼感は、市民と公的機関や政府機関の間だけでなく、市民間にも存在している。
それは、この国の新型コロナへのアプローチを見れば明らかだ。
ノルウェーはスウェーデンとの1000マイル(約1600km)にも及ぶ陸路の国境を完全に閉鎖したわけではないが、国外から帰国する人のほとんどは2週間の検疫を受けなければならない。さらに、屋外での集団行動を5人以下に制限し、屋内での集団行動は6フィート(1.8m)以上の距離を保たなければならない(親族を除く)。
また、デンマークは国境を閉鎖し、公務員には有給休暇を取らせ、他のすべての従業員には在宅勤務を推奨。ナイトクラブ、バー、レストラン、カフェ、ショッピングセンターを閉鎖し、屋外での10人以上の集会を禁止した。
スウェーデンは当初、500人以上の集会を禁止した。イベント主催者の中には、チケット販売を499人とし、群衆制限を回避しようとした人もいた(スタッフに感染者が発生し、中止)。
テグネルは、禁止が機能しない理由はそこだと話す。「人々はルールをかいくぐる方法を見つけるのです」
彼はスウェーデンは異端ではないし、隣国の戦略を理解していないわけではない、と続ける。
「ほぼすべての国に感染者が確認されているこの段階で国境を閉じることには意味がありません。これは短期的にも長期的に見ても治まる病気ではなく、もはや封じ込めの段階ではありません。軽減の段階にあるんです」
そして、学校の閉鎖などありえないとも付け加えた。

スキー休暇で油断しないように

3月28日までに9700人以上のウイルス感染者と639人の死者を報告したオランダ(3月31日感染11750人、死者864人)は、スウェーデンと同様のアプローチを取っている。
3月16日、マルク・ルッテ首相は、1710万人の国民のうち、重症化するリスクが低い層の間で「コントロールされた拡散」を選択していると述べ、国を 「完全に」閉鎖するには遅すぎると主張した。
新聞「スヴェンスカ・ダーグブラーデット」紙の行った調査によると、スウェーデン人の52%がこれまでの措置を支持している。しかし、14%は、経済優先で公衆衛生への配慮があまりにも少ないと感じている。
そして、現在、その懸念は高まりつつある。公衆衛生機関が再考するように求めているにもかかわらず、スウェーデン人はイースター休暇(4月10日〜13日)にむけて、スキー場への旅を計画しているのだ。
デンマークのメッテ・フレドリクセン首相も隣国について警告を出した。「スキー休暇でスウェーデンに行ってはいけない!」
先週、集団感染がスウェーデンのアルペンセンター行われたスキー後のパーティーで発生したことが判明し、当局はゴンドラ、バーやナイトクラブを閉鎖。スカンジナビアにおける何百という新型コロナウイルス感染は(ヨーロッパ全体でみても)イタリアとオーストラリアからのスキー旅行から戻った人々から始まった。
ソーシャルメディア上にはスキー場閉鎖の請願書がある。
スウェーデンの感染曲線は急激に上昇し始めており、3月27日に群集の制限は50人以下となった。
政府の方法を支持するかどうか迷っている人もいる。ホテル経営者のエリザベス・ハットレムさんは「ビジネスを続けられることに感謝しています」と語りながらも、6人の子供たちをパンデミックの中で学校に通わせることに不安を感じてると続け、こう話した。
「私たちにとっては、ロックダウンは大惨事です。でも、スウェーデンでもいつか感染が爆発するのではないかと思うと心配でたまりません。私たちは巨大な実験をされているように感じます。それを了承したつもりはないのですが」
© 2020 New York Times News Service
※この記事は3月28日に書かれたものです。
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