北朝鮮、核開発めぐりバイデン氏に向けメッセージ 「そっちが動く番」 - BBCニュース

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Feb 1, 2021 11:15 PM
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金正恩氏は平壌で開かれた朝鮮労働党の党大会6日目(10日)に総書記に昇格した(11日撮影)
北朝鮮の指導者・金正恩(キム・ジョンウン)氏が、新たな武器の「欲しいものリスト」を示しながら、自らの誕生日を祝った。
リストに挙げられていたのは、より高精度の長距離ミサイル、超大型核弾頭、偵察衛星、原子力潜水艦などだ。
ここ5年間で北朝鮮最大の政治イベントである、朝鮮労働党党大会において発表された武器開発計画に、脅威を覚える向きもあるだろう。実際、それは脅威だ。
ただ、それは挑戦でもある。重要なのは、アメリカのジョー・バイデン次期大統領の大統領就任が目前という、今回のメッセージが出されたタイミングだ。
このたび総書記(一党支配を続ける朝鮮労働党の最高位)に昇格した金氏は、現在のアメリカの騒乱の中で、自国以外にメッセージを届けるのに苦労している。
もし、アメリカの新政権が金氏の核開発への野心を抑えたいと望むのなら、今こそ彼の言葉に耳を傾ける時かもしれない。
「Kim Jong-un and the Bomb(金正恩と爆弾)」の著書があるアンキット・パンダ氏は、「金の発表は疑いなく、アメリカの新政権がすぐに行動を取らなければ、北朝鮮はアメリカや韓国の国益に有害となる方向で開発能力を質的にアップさせるぞと強調する意図がある」と分析。バイデン次期政権は、これを真剣にとらえるべきだと話す。
北朝鮮のミサイル発射実験のニュースをテレビで見る韓国・ソウルの市民ら(2019年7月)
金氏とドナルド・トランプ大統領は3度会談した。だが、北朝鮮の核開発計画や、北朝鮮に大打撃を与えているアメリカと国連による経済制裁を終わらせる方向での合意には至らなかった。
朝鮮半島で現在出ている疑問は、「バイデン氏は少しでも改善できるのか」、「彼は金氏の脅威を真剣に受け止めるのか」だ。
「次期大統領はその状況をまともにとらえるべきだ。そしてできるだけ早く、来るべき北朝鮮との協議において、彼の政権が何を目指すのかを明確にすべきだ」とパンダ氏は言う。
「もし、制裁緩和には包括的で完全な核軍縮が重要だとする従来の姿勢をアメリカがまったく変えないと金氏が感じれば、彼は単に核実験などの活動を進めるだろう」
米朝首脳会談は、失敗に終わったのかもしれない。しかし、朝鮮労働党の議場のメインホールでは、首脳会談は「国際政治史において最も重大な出来事」として、鮮やかな色彩で賛美されている。
これは、バイデン氏が望むのであれば、いくらかの対応を取れる余地があることを示している。
ただ、アメリカが最初に動く必要があり、いかなる取引にもコストは必要になると、新アメリカ安全保障センターの非常勤シニアフェロー、ドゥヨン・キム氏は話す。
「アメリカに対する金正恩氏の代償は、米韓合同軍事演習の終了、制裁の撤廃、話し合いの前に人権問題で批判するのを控えることだ。アメリカ政府は無条件にはこれらをしないだろう」
「仮に米朝協議が再開し、どんな取引をするにしても、金氏が求める代償は大きい。彼は双方が互いに措置を講じる、冷戦時代型の軍縮交渉を提案しているからだ。しかし、アメリカと北朝鮮の核備蓄はまったく等しくないので、それは不合理だ」
ミサイルを高く飛ばせることは、遠くに飛ばせることを意味する。以下、北朝鮮のミサイル3種のテスト実績。①火星14=高度3000キロ、距離900キロ、最大想定射程距離1万キロ、②火星12=高度550キロ、距離2700キロ、③火星12=高さ770キロ、距離3700キロ、④火星15=高度4500キロ、距離1000キロ、最大想定射程距離1万3000キロ(出典:CSIS、ジェイムズ・マーティン不拡散研究センター/NTI)
トランプ氏と金氏は、2019年2月にヴェトナム・ハノイで開かれた2回目の首脳会談で、合意目前まで行ったというのが私の認識だ。
しかし、その合意はもはや話し合いのテーブルから消えている。そして金氏は今後、これまでとはかなり違うタイプの大統領と交渉することになる。
今回の演説で金氏は、自らが優位に立っているとはっきり示そうとしているのだ。
彼は交渉の出発点をリセットしている。それはもはや、彼が現在の核備蓄を放棄することではなく、彼に新しく改良された核兵器を開発させないことへと変わっている。
金氏が核備蓄を増やしたいという野心をもつのは、大きな驚きではない。
多くの人が驚いたのは、彼が詳細な目標リストを発表したことだ。
当然ながら、新たな兵器はテストが欠かせない。しかし、テストをすれば緊張が生じる。
北朝鮮が3回にわたって長距離ミサイルのテストをした後の2017年、トランプ氏が「炎と怒り」で応じると発言したときの脅威を、朝鮮半島の誰もが覚えている。
14日には平壌で軍事パレードが開かれ、新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)とみられる兵器が披露された
韓国は、こうした熱を帯びた言葉と瀬戸際外交が繰り返されるのを防ごうと懸命だ。
しかし、金氏は対決姿勢を示しており、何らかの反応が得られるだろうかと、おそらく思いをめぐらせている。
金氏は演説で、長距離ミサイルにどこまで飛んで欲しいかということまで言及した。1万5000キロメートル先のターゲットを攻撃できるようにしたいと思っている。
この距離は、北朝鮮がアメリカを攻撃できる以上のことを意味する。
北朝鮮は2017年後半、「火星15」として知られるミサイルを発射。核弾頭を搭載させて、アメリカのどの地域にも飛ばすことができると主張した。
だがこのミサイルが、目標に向かって飛行し大気圏に再突入する際に、核弾頭を守るのに必要な技術を備えているのかは不明だ。
一方、原子力潜水艦を保有する夢は、実現までかなり長い道のりになるだろうとアナリストらはみている。
しかしながら、北朝鮮は「これまで非常に対応力が高いことを示してきた」と、パンダ氏は話す。
北朝鮮は核開発に対するバイデン氏の出方を見定めようとしている
度重なる経済危機にもかかわらず、金氏は現行の核開発において著しい進歩を実現してきた。
「金氏が目標すべてを達成できなくても、列挙した兵器システムのいくつかのテストや製造を押し通し、開始させようという彼の意志を見くびるべきではない」とパンダ氏は言う。
大きな問題は、北朝鮮がここ数十年で最悪レベルの経済状態にある中で、金氏が自らの野望にかかる費用をどうねん出するのかということだ。この「欲しいものリスト」は、ただのこけおどしとなるのか。
5年前、金氏は国民に経済的繁栄を約束した。その計画は現在、無残な状態になっている。
「すまない」という言葉は、彼の父や祖父から聞かれることはなかった。一方、この若い指導者は、いまや謝罪するのに慣れている。昨年10月の軍事パレードでは、国民が直面している厳しい状況を説明する際に、涙を流す姿まで見せている。
北朝鮮は中国との国境を、新型コロナウイルス感染症COVID-19の拡大を防ぐため、1年近く閉じている。
COVID-19について、北朝鮮は1人の感染者も出ていないとしている。だが、この秘密主義の国で新型ウイルスの感染が広がっているとする未確認情報は数多い。
国境封鎖により、中国との貿易は80%近く減っている。
一連の台風と洪水で、主要作物や家々には深刻な被害が及んでいる。
ウェブサイトのNKニュースは、首都・平壌のスーパーの棚は空の状態だと伝えた。韓国の諜報当局によると、北朝鮮では砂糖などの単純な商品の価格が急騰しているという。
複数の外交関係者は、医療品を含む特定の物資が国境で山積みになっていると、私に語った。
うまくいけば、それらは遅れて北朝鮮に届けられるだろう。しかし、国内にまったく運び込まれない恐れもある。そしてもちろん、厳しい経済制裁が続けられている。
北朝鮮がこれほど国際社会から切り離されたことは、かつてなかった。
国内では、各家庭が臨時収入を得ようとして各地で生まれた、非公式の市場を取り締まる動きがみられる。
そうした資本主義の小規模な動きは長年、容認されてきた。しかし現在、政府はここで動く金銭も集めている。
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動画説明, 北朝鮮で再び「ジャガイモ」のプロパガンダ 何を意味する?
北朝鮮経済をつぶさに研究しているウィーン大学博士課程のピーター・ウォード氏は、政府のこの動きは新型ウイルスが世界的に流行する前からみられると指摘。「金正恩氏が権力を握る前に始まっていたものもある」とする。
「2019年以降にみられる、市場関係者への敵意の強さと、国の小売システムの復興に対する力の入れ具合は、顕著であり心配だ」
韓国はまもなく発足するバイデン政権に対し、北朝鮮との交渉に前向きだと北朝鮮側に伝えるべきだと、ほのめかす以上のことをしている。
韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は新年の演説で再び、北朝鮮の金総書記と「いつでも、どこでも」会談する意思があると述べた。
しかし金氏は、この和平の申し出を拒絶。北朝鮮にとって韓国は交渉の相手ですらないと、蔑視することも珍しくない。援助の申し出や、COVID-19対策の薬やワクチンをめぐる協力の提案も、金氏ははねつけている。
NKニュースのアナリスト、ジョンミン・キム氏は、「韓国が期待値を下げる時だ」とし、次のように話す。
「北朝鮮は南北協力のようなシンボリックで小規模な事柄には興味がないことを、今回の党大会で、文大統領に向かってより明確に示した」
「ただアメリカに対してそうしているように、北朝鮮は韓国に対して完全にドアを閉じているわけではなく、条件をつけて留保している状態だ。それはまるで、出方を見定めようとしているかのようだ」
「韓国にとって、アメリカとの関係を犠牲にして北朝鮮と手を握るのは無理な注文だ。文氏にそれはできない」
「しかし、北朝鮮が条件付きで留保し、完全に関係を断ったわけではないので、韓国は望みを持ち続け、できることを進めるだろう。それは引き続き、関係崩壊のリスクを最低でも管理するため、公衆衛生面での協力を申し出ることであり、文の任期が終了する2022年までは継続されるだろう」
このように、取引へと続くすべての道は、米政府を通っているように思われる。ただ、米新政権の優先事項リストは項目が増えており、どれも重要性が大きい。北朝鮮はその中の1つに過ぎず、注目を引こうと躍起になっている。
だが、もしバイデン氏が素早く反応しなければ北朝鮮は行動を起こすだろうと、アナリストの多くが考えている。おそらく弾道ミサイルのテストをすることが予想される。
いまや金氏は舞台のセットを終えた。そして、「バイデンさん、あなたが動く番だ」というメッセージを送っている。