不確実な「コロナ時代」を生き抜くには、徹底的に“悲観的”であれ | スイス人哲学者アラン・ド・ボトンが提言 | クーリエ・ジャポン

★★★:バランスよく議論できる
★★☆:意見を吟味する
★☆☆:客観的情報
☆☆☆:議論用ではない
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Apr 22, 2020 09:38 PM
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1969年、スイス生まれの作家・哲学者、アラン・ド・ボトン。1992年にロンドン大学キングス・カレッジで哲学の修士号を取得した後、ハーバード大学でフランス哲学の博士課程に在籍し、作家に転身。『プルーストによる人生改善法』(白水社)など数々の世界的ベストセラーを著書に持つ。現在は英ロンドン在住 Photo: Jeremy Sutton-Hibbert/Getty Images
突然の「コロナ危機」によって、いままで当たり前に続くと信じられていた日常が大きく変化しようとしている。哲学者にしてベストセラー作家のアラン・ド・ボトン氏がイスラエル紙に語った、先の見えない不安定な時代に心安らかに生きるヒントを紹介しよう。
──つまらない日常が、こんなに短い間に暗黒の世界に変わるなんて本当に驚きです。現実に起きているとは思えないほどです。いったい、今日は何について話せばいいでしょう? (ボトン氏が住んでいる)ロンドンの様子はいかがですか?
アラン・ド・ボトン氏(以下、ボトン) この数週間、私は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックについて、あらゆる医療報告書や報道記事を読みました。そして、そのすべてが非常に困った時代になるだろうと明確に結論づけていました。
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ロンドンの中心地トラファルガー広場でも、都市封鎖で人が消えた photo: Mike Abrahams/In Pictures via Getty Images
いまの危機的な状況について、言いたいことは山ほどあります。現代社会で生きる我ら人間は、科学とテクノロジーで自然をコントロールできると思っています。それは啓蒙主義の核となる思想で、人類は自らを世界の覇者で食物連鎖の最高位の捕食者と思い込み、環境は私たちの支配下にあると確信しています。
しかし、実際はまったく違います。第一に、私たちは真の意味で環境を理解していません。人間はある分野には精通しているかもしれませんが、同時に多くの無知と未知の領域に四苦八苦しています。
──人間は無知なのでしょうか、それとも都合の悪いことを無視しているのでしょうか?
ボトン 両方でしょうね。人間は愚かで傲慢で、欠陥だらけの痛ましい動物です。古代ギリシア人はそれを知っていました。有史以前の時代から、そうした性質は私たちの文化的なDNAに組み込まれているのです。
──けれど、私たちはそれを認識しておらず、いま「謙虚」という名の大きなパイに喉をつまらせています。飲みこむ力がないんです。
ボトン 私たちは、このパイをすべて食べきらなければなりません。人間はこれまで、自分たちは完璧で、安全が保障されていて、統制されていると強く信じながら進化してきました。ところが実際には、有害な生物や災難にさらされている、傷つきやすい薄い皮膚のような存在なのです。しかし一方で、私たちは皆どう死ぬべきかわかっています。これはいいことです。
──いいことなんですか⁉
ボトン もちろんです。「死」だけが、人間がこれまでずっと効率的かつ系統的にできている唯一のことですから。私たちは普段、些細なことに怒ったり、文句を言ったりしながら生きています。たとえば、ここロンドンでは、グレービーソースが料理の上にかかっておらず横に添えてあったとか、そんなことで人々は不平を言います。
でも、そんな穏やかな日々のなか突然、医師に「あたなはガンで、余命は3週間です」と告げられるかもしれません。私たちは、恐怖のどん底につき落とされますが、同時にその事実を受け入れます。なぜなら、人間はどう死ぬべきかをわかっているからです。
たとえ生き続けたいと願っていても、私たちは死に方を知っています。これはとても重要なことです。

「底辺」に備えよ

──死に方を知っていることに、安らぎを見出せるのでしょうか?
ボトン 見出せます。たとえそれが、いささか暗い安らぎだとしても。私の一番好きな哲学は、ストア派です。
──私もセネカの著作を読みました。セネカは不安にとらわれた人々に教えを説いた哲学者ですね。
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ストア派の哲学者セネカ(前列右から2番目)は、皇帝ネロに自殺を強要されて命を落とす Photo: Time Life Pictures/Mansell/The LIFE Picture Collection via Getty Images
ボトン その通りです。ストア派の哲学者たちは、平和に生きるためには「すべてうまくいく」などと考えないことだと説きました。つまり、「笑って。大丈夫、すべてうまくいくから」などと言う人たちは皆、自分の首を絞めているだけなのです。
心に平安をもたらす唯一の方法は、最悪のシナリオを想定することです。そうすれば何が起ころうとも、大丈夫。なぜなら、最悪の事態を受け入れる準備がすでにできているのですから。
──セネカは一日の始まりに、起こりうるすべての身体の痛みや心の苦しみについて深く考えることから始めるように勧めていますね。
ボトン ストア哲学の観点から、感染症について検証してみましょう。新型コロナウイルス感染症は、おそらく世界中に広がって何百万もの人が亡くなるでしょう。もしかすると何千万人かもしれません。
今後はわずかな収入で暮らさなければならず、既存システムのすべてが崩壊するでしょう。そして私たちは、愛する人を失うかもしれません。これが起こり得ることです。
こうした状況にならないことを祈る一方で、最悪の事態の想定は私には魅力的でもあります。底辺はどこで、それがいかにひどい状態なのかを理解していれば、備えることができますから。
──しかし、現在のように多くの人が巨大な恐怖のなかにいて人間の弱さを思い知らされている状況で、最悪の事態の想定はただ不安を煽るだけではありませんか?
ボトン では、実際のところ不安とは何なのでしょう?【続く】