翻訳日記: パンデミックの終焉(前編)

★★★:バランスよく議論できる
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☆☆☆:議論用ではない
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Mar 29, 2020 11:38 PM
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米国は結果的に、先進工業国中最悪のCOVID-19集団発生に終わる可能性がある。それは、こんなふうに展開するだろう
3か月前、SARS-CoV-2(*新型コロナウィルス。急性呼吸器疾患Covid19を引き起こす)の存在を誰も知らなかった。現在、このウイルスはほぼすべての国に広がり、わかっているだけでも少なくとも446,000人が感染しており、さらに多くのまだ知られていない感染者がいる。それは経済をつぶし、医療システムを破壊し、病院をいっぱいにし、公共スペースを空にした。人々を職場や友人から切り離した。現代社会を、いま生きている人間のほとんどがこれまで目撃したことのない規模で混乱させた。もうすぐ、ほとんどすべての米国人が感染した知人を持つようになる。第二次世界大戦や9.11と同様に、このパンデミックはすでに国民の心に刻印されている。
この規模の世界的なパンデミックは、避けられなかった。近年、何百人もの医療専門家が本や、報告書、論説を書き、その可能性について警告してきた。ビル・ゲイツは、TEDトークの1,800万人の視聴者を含め、聴く耳を持ったすべての人に語ってきた。2018年に、私はアトランティック紙に記事を書き、米国はやがて発生するパンデミックの準備ができていないと主張した。10月、ジョンズ・ホプキンス健康安全保障センターは、新しいコロナウイルスが地球を席巻した場合に何が起こるかについての疑似演習イベントを行った。そして、それは起こった。仮説が現実になった。「もしそうなったら?」が「で、どうなる?」になったのだ。
さて、で、どうなる? 先週の水曜日の深夜、今では遠い過去のように思えるが、私は数日後に予定日を迎える妊娠中の友人とパンデミックについて話していた。私たちは、生まれてくる彼女の子供がCOVID-19によって大幅に変化した社会に生まれる新しいコホート(*群)の1人になると気づいた。そしてその子らを「ジェネレーションC」と呼ぶことにした。
このあと見ていくように、ジェネレーションCの生活は、今後数週間に行われる選択と、その結果として私たちが被る損失によって形作られる。しかしまず、ちょっとした評価を紹介しよう。全世界の国々のパンデミックへの備えを評点する成績表である「グローバル・ヘルス・セキュリティ・インデックス」において、米国のスコアは83.5点——世界最高だ。豊かで、強く、発展した国である米国は、最も準備が整っているということになっている。その幻想は打ち砕かれた。ウイルスが他の国で広まっていた数か月の間の事前警告にもかかわらず、最終的にCOVID-19に試されたとき、米国は失敗した。
「どうあっても、[SARS-CoV-2のような] ウイルスは、どんなに設備の整った医療システムについてもその対応力の限界を試すことになったでしょう」ボストン大学医学部の伝染病医であるナヒード・バデリアは語る。季節性インフルエンザよりも感染力が強く致死率も高いこの新型コロナウイルスはまた、より捉えにくく、明らかな症状が現れる数日前に、宿主から宿主へと広がる。このような病原体を封じ込めるためには、各国は検査を開発し、それを使って感染者を特定し、隔離し、接触した人間を追跡する必要がある。これは、韓国、シンガポール、香港が行い、大きな効果があったことだ。そしてそれは米国が行わなかったことだ。
私の同僚のアレクシス・マドリガルとロビンソン・マイヤーが報告したように、アメリカ疾病管理予防センター(CDC)は2月に欠陥のある検査キットを開発して配布した。独立した研究所が代替のものを作成したが、アメリカ食品医薬品局(FDA)の官僚主義によって埋もれてしまった。米国の症例が数万件に及んだ決定的に重要なひと月のあいだに、検査されたのは数百人だけだった。米国のような生物医学の大国が非常に単純な診断テストの作成に完全に失敗するということは、実際、想像を超えたことだった。「検査に失敗するという仮説に基づくシミュレーションは私もやったことがないし、それ以外でも見たことがありません」と、感染症に関連する法的および政策的問題に取り組んでいるジョージタウン大学のアレクサンドラ・フェランは言う。
検査の大失敗は、米国のパンデミック対処の失敗における原罪であり、この欠陥が他のすべての対策を損なうことになった。国がウイルスの蔓延を正確に追跡していたなら、病院は対パンデミックの計画を実行に移し、治療室の割り当て、追加の備品の注文、職員のタグ付け、特定の施設の割り当てなど、COVID-19の患者に対処するための備えを行うことができた。これらのことは起こらなかった。代わりに、すでにフル稼働に近い状態で、深刻なインフルエンザの季節にも直面していた医療システムは、突然、追跡されずに放置され、全国のコミュニティを介して拡散していたウイルスに直面した。疲弊していた病院は悲鳴を上げた。マスク、ガウン、手袋などの基本的な保護具がなくなり始めた。もうすぐそこに病床の不足と、肺がウイルスにやられた患者に酸素を供給するベンチレーターの不足も加わるだろう。
動きが取れない危機のもとでは、米国の医療システムは、影響を受けていない州が緊急事態に苦しんでいる州を助けることができるという仮定に基づいて運用される。その倫理は、ハリケーンや山火事などの局地的な災害には有効だが、現在50州すべてで発生しているパンデミックには有効ではない。協力は競争に道を譲った。一部の病院は不安から、パニックに陥った消費者がトイレットペーパーを購入したように、大量の備品を購入した。
その理由の一部は、ホワイトハウスが科学的専門知識のゴーストタウンだからだ。国家安全保障理事会の一部であったパンデミック準備室は2018年に解散した。1月28日、そのチームのメンバーであったルチアナ・ボリオは、「今すぐ米国の大流行を防止するために行動する」よう政府に要請し、具体的には民間部門と協力して、迅速で簡単な診断テストの開発を進言した。しかし、準備室が閉鎖されていたため、この警告はウォールストリートジャーナル紙に掲載され、大統領の耳に入ることはなかった。米国は行動を起こす代わりに、アイドリング状態でじっとしていた。
舵取り不在で、不意打ちをくらい、無気力で、連携がなされず、米国はCOVID-19の危機を、私が話を聞いたすべての医療専門家が恐れていたレベルよりもかなりひどく扱った。「はるかにひどい」と2014年に西アフリカのエボラ出血熱への米国の対応を調整したロン・クレインは言う。「我々のどんな予想も超えている」とジョンズ・ホプキンス・メディスンで災害への備えに取り組んでいるローレン・サウアーは言う。「アメリカ人として、私はほんとうに恐ろしいです」と、ワクチンと予防接種のための世界同盟「ガヴィ」を率いるセス・バークレーは言った。「米国は、先進工業国で最悪の集団発生に終わる可能性があります」
I. 次の数か月
遅れをとっている米国が追いつくのは困難だ——しかし不可能ではない。COVID-19はゆっくりとした長い病気なので、近い将来はすでにある程度決まっている。数日前に感染した人は、たとえその間自己隔離をしたとしても、いまやっと症状を示し始める。それらの人々のうちの何人かは4月初旬に集中治療室に入る。先週末の時点で、全国で17,000人の感染者が確認されているが、実際の数はおそらく60,000から245,000のあいだだろう。現在、数は指数関数的に増加し始めている。水曜日の朝の時点で、公式の感染者数は54,000であり、実際の感染者数は不明。医療従事者はすでに心配の兆候を目にしている。備品の減少、患者数の増加、そして自ら感染している医師や看護師たち
イタリアとスペインは未来について厳しい警告を出している。病院は病室、備品、スタッフが不足している。すべての人を治療して救うことができず、医師たちは考えられない状況に追い込まれた。生存する可能性が高い患者に治療を割り当て、その他の人が亡くなるままにしているのだ。米国はイタリアよりも一人当たりの病床数が少ない。インペリアル・カレッジ・ロンドンのチームが発表した研究は、パンデミックが検査されないままである場合、その病床は4月下旬までにすべて満杯になると結論づけた。6月末までに、利用可能なひとつの救急医療ベッドに対して、おおよそ15人のCOVID-19患者が存在することになる。夏の終わりまでに、米国人のパンデミックによる直接の死亡者は220万人になる。病院が通常の多数の心臓発作、脳卒中、および自動車事故に対応できないために間接的に死亡する人々は計算に入っていない。これが最悪のシナリオだ。これを回避するには、4つのことが——迅速に——行われる必要がある。
1番目の、そして最も重要なことは、マスク、手袋、その他の個人用の保護具を迅速に製造することだ。医療従事者が健康を維持できなければ、残りの対応は崩壊する。一部の所では、すでに備蓄量が非常に少ないため、医師は患者間でマスクを再利用したり一般からの寄付を求めたり手製の代替品を縫ったりしている。これらの不足は、医療用品が受注生産されるものであり、複雑な国際サプライチェーンに依存していて、それが現在疲弊し、破綻しているために発生している。パンデミックの震源地である中国の湖北省は、医療用マスク製造の中心地でもあった。
米国では、医療用品の全国規模の貯蔵庫である戦略的国家備蓄がすでに展開され、特にひどく打撃を受けた州に対応している。備蓄は無尽蔵ではないが、しばらくは時間を稼げるだろう。ドナルド・トランプはその時間を防衛生産法を発動させるために使うことができ、米国の製造業者が医療用品の製造に切り替える戦時下の対応を開始できる。しかし、先週水曜日にこの法案を発動した後、トランプは実際にそれを運用することに失敗した。それは米国商工会議所と主要企業の代表らのロビー活動のためだと伝えられている
一部のメーカーはすでにこの課題に対処する行動を起こしているが、取り組みは断片的で、不均等に配分されている。ネブラスカ大学医療センターの公衆衛生学部長であるアリ・カーン氏は、「気がつけば、ある日、バンダナを使って仕事をするX市の医師がいて、Y市の倉庫にはマスクが積み重ねられている、ということになっているでしょう」と述べた。「いま、全国で大規模なロジスティクスとサプライチェーンの運営が必要です」とジョンズ・ホプキンス・ブルームバーグ公衆衛生学校のトーマス・イングル​​スビーは語る。それは、ホワイトハウス全体に散らばっている経験の浅い小さなチームでは管理することができない。彼は、解決策はアメリカ国防兵站局を引き込むことだと言う。それは海外での作戦のために米軍の装備を整える26,000人からなるグループで、2014年のエボラ出血熱を含む過去の公衆衛生危機を支援している。
この機関は、2番目の緊急ニーズ、つまりCOVID-19の検査の大規模な展開を仕切ることもできるだろう。検査の到着が遅れている理由は、5つの個別の不足からきている。検査を行う人々を保護するマスク、ウイルスサンプルを採取するための鼻腔用綿棒、サンプルからウイルスの遺伝物質を取り除くための抽出キット、そのキットの一部である化学試薬、そしてテストを実施することができる訓練された人員だ。これらの不足の多くは、ここでも、サプライチェーンの疲弊が原因で起きている。米国は、3つの製造元に抽出試薬を依存しており、いずれかがだめになってもバックアップがあるようにしている——しかしその3つともが前例のない世界的な需要に直面してだめになった。その一方、ヨーロッパで最も大きな被害を出しているイタリアのロンバルディアには、鼻腔用綿棒の最大のメーカーのひとつがある。
一部の不足には対策が講じられている。FDAは現在、民間の研究所で開発された検査キットを承認するために迅速に動いている。少なくともひとつの検査は、1時間以内に結果を出すことができるもので、医師が目の前の患者についてCOVID-19かどうかを知ることができるようになる可能性がある。国の「キャパシティは毎日上がっている」と公衆衛生研究所協会のケリー・ロブレウスキーは言う。
トランプは3月6日、「検査を受けたい人は誰でも検査を受けることができる」と述べた。そのときそれは(そしていまもなお)真実ではなく、トランプ自身の当局者がすぐに訂正した。それでも、不安な人々が病院に殺到し、存在しない検査を求めた。「人々は症状がなくても、咳をする人の隣に座っただけでも、検査を受けたいと考えました」と、病院がパンデミックに備えることに取り組んでいるジョージ・メイソン大学のサスキア・ポペスクは言う。風邪をひいただけの人もいたが、それでも医者は診察のためにすでに在庫薄になっているマスクを使わなければならなかった。「ほんとうに医療システムに負担がかかりました」とポペスク氏は言う。現在、検査のキャパシティが増えてはいても、検査キットは慎重に使われる必要がある。ハーバード大学のマーク・リプシッチによると、最優先なのは医療従事者と入院患者を検査することであり、病院が進行中の危機を鎮火できるようにすることだ。もっと後になり、差し迫った危機が鈍化して初めて、検査をより広範囲に展開するべきだ。「さあどんどん検査を始めよう!、ということではないんです」イングルスビー氏は言う。
これらの対策には時間がかかる。そしてその間、パンデミックは医療システムの能力を超えて加速するか、あるいは抑制可能なレベルまで遅くなる。その進路——そして国の運命は——いまや3番目のニーズである「社交的距離をとること(social distancing)」に依存している。こう考えてみてほしい。現在すべてのアメリカ人は2つのグループに分けられる。グループAには、患者の治療をしたり、検査を行ったり、備品を製造するなど、医療に関わるすべての人が含まれる。グループBにはその他のすべての人が含まれ、その人々がやらなければならないのはグループAのために時間を稼ぐことだ。グループBは、自分自身を他人から物理的に隔離することにより感染の連鎖を遮断し、「曲線をなだらかにする」必要がある。COVID-19のゆっくりとした発生を考えると、将来的な医療システムの崩壊を未然に防ぐためには、これらの一見劇的な措置は直ちに行われる必要がある。状況とつりあっていると感じられるよりも前に行われなければ遅いのだ。
国民に自発的に家にいるように説得することは容易ではない。ホワイトハウスからの明確なガイドラインがないために、市長や知事、事業主は独自の措置をとらざるを得ない。一部の州では、大規模な集まりを禁止し、レストランや学校を閉鎖した。現在、少なくとも21の州が何らかの形で強制的な検疫を実施しており、人々に家にいる必要があると説得している。それでも多くの市民が公共の空間に集まり続けている
こういった、すべての人の利益が多くの人の犠牲にかかっているときには、明快な調整が必要になる——それが4番目の緊急のニーズだ。「社交的距離をとる」ことの重要性を納得できるように語るには、相手が十分に情報を得て安心している必要がある。ところがトランプは問題を繰り返し過小評価し、国民に「私たちはとてもうまく制御している」と事実そうではないときに語り、感染者が増えているときに「ゼロに近くなる」と語った。無制限に検査ができるという主張のように、ときには誤解を招く失言が危機を深める。彼は証明されていない薬さえ宣伝した
トランプは、ホワイトハウスの記者会見室にいないときには、どうやら国立アレルギー感染症研究所の所長であるアンソニー・フォーチの話を聞いているようだ。フォーチ氏は、ロナルド・レーガン以降、すべての大統領に新しい伝染病について助言してきた。現在、トランプとほぼ1日おきに会議を行うCOVID-19タスクフォースに参加している。「彼は自分のスタイルを持っています。まあそういうことにしておきましょう」とフォーチ氏は私に言った。「しかし、これまでに私が行ったあらゆる推奨、その要点については、彼は耳を傾けてきました」
しかし、トランプはすでに揺らいでいるようだ。彼は最近、経済を保護するために「社交的距離をとる」政策を後退させる用意があることを示唆している。知識人やビジネスリーダーは同様のレトリックを使って、高齢者などリスクの高い人々を保護しながら、リスクの低い者は仕事に戻ることができると主張している。そのような考えは魅力的だが、欠陥がある。この考え方は、ひとりひとりのリスクを判定する能力を過大評価し、「リスクの高い」人々を社会から隔離しようとする。ウイルスが「リスクの低い」グループにどれほどひどい影響を与えるか、そして若い人々だけが発症した場合でも病院がどれほど決定的に破綻するかを過小評価している。
ペンシルベニア大学の最近の分析は、「社交的距離をとる」措置によって感染率を95%削減できたとしても、依然として960,000人の米国人に集中治療が必要になると試算している。米国には約180,000人分のベンチレーターしかなく、より核心に触れることで言えば、ベンチレーターを使う患者を安全に看ることができる呼吸療法士と救急医療スタッフは100,000人の患者に対応できる人数しかいない。「社交的距離とること」をやめるのはばかげている。検査キットと防護用の備品がまだ不足しているいま、それを放棄することは破滅的だ。
トランプ氏が方針を変えず、米国人が「社交的距離をとること」を守り、検査が展開できて、十分なマスクが製造できた場合には、米国がCOVID-19に関する最悪の予測を回避し、パンデミックを一時的に抑制できる可能性はまだ残っている。どれくらいかかるかは誰にもわからないが、すぐにではない。「4~6週間から、最大3か月かかる可能性があります」とフォーチ氏は言う。「しかし、私はその期間に自信を持ってはいません」
(後編につづく)
(数字は掲載時のまま)