新型コロナウイルスのワクチン 世界の接種状況は - BBCニュース

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Feb 18, 2021 10:42 PM
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新型コロナウイルスのワクチンについて、世界中で大勢が気にしていることがある。「自分の番はいつ来るのか」。一部の国はかなり具体的な目標を設定しているが、それ以外での展望はまだかなり不透明だ。世界各地でいつから誰がワクチンを受けられるようになるのか?
新型コロナウイルスによる感染症COVID-19に対して、世界中にワクチンを接種する。これは人類全体にとって、生きるか死ぬかの問題だ。
ワクチン接種には複雑な科学的手続きに加え、多国籍企業、政府による矛盾する公約や、大仰な官僚主義や規制の制約がからむ。そのため、世界中でいつ、どのようにワクチン接種を展開するかは、必ずしも単純な作業ではない。
英誌エコノミストの調査部門「エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)」で世界規模の情勢予測を担当するアガト・ドゥマレ氏は、この件について傑出した包括的調査を行ってきた。
EIUは、世界全体のワクチン製造能力と、ワクチンを実際に人の腕に打つまでに必要な医療インフラ、各国の人口規模と、そしてもちろん経済力を比較検討した。
調査結果の大半は予想通り、金持ちの国と貧しい国の違いで大きく異なっていた。イギリスとアメリカは現在、ワクチンをたっぷり確保している。そもそもワクチン開発に巨額投資ができたため、今では行列の先頭にいるからだ。
一方、金持ち国でもカナダや欧州連合(EU)諸国は、少し遅れをとっている。
ほとんどの低所得国は2月半ば現在、まだワクチン接種を開始していない。世界各地のワクチン接種事業の展開状況については、下で検索して国別に見ることができる。
カナダは昨年末、人口全体に必要な量の5倍を購入して批判されたが、実際のワクチン供給の順番は後方に甘んじているようだ。
トランプ政権下のアメリカがワクチン輸出を禁止しかねないと判断したカナダ政府が、欧州の工場で作られるワクチンに投資を優先させたことが原因だが、これは結果的に悪手だった。
欧州のワクチン生産施設は、予定量を十分に作れていない状態で、輸出禁止を口にしているのは最近ではアメリカではなくEUの方だ。
「欧州市場のワクチンが不足している限り、カナダへの大量輸出は実現しないはずだ」と、ドゥマレ氏は言う。
その一方で、予想外に成功している国もいくつかある。
2月上旬の時点でセルビアは、人口あたりのワクチン接種人数において世界8位で、どのEU加盟国よりも先を行っている。セルビアの成功は、効率的な接種事業の展開によるところもあるが、東欧で繰り広げられるワクチン外交の恩恵も受けている。東欧ではロシアと中国が、ワクチン供給を通じて影響力を競い合っており、ロシアのスプートニクVと中国のシノファームがすでに両方とも使える、数少ない場所がセルビアなのだ。
セルビア人は表向き、米ファイザー、スプートニク、シノファームのどのワクチンを希望するか選ぶことができる。実際には、ほとんどの人はシノファームのワクチンを受けている。ここで中国が発揮する影響力は、長期的なものになりそうだ。初回と2回目のワクチンにシノファームを使う国々は、それ以降のブースター(追加)接種が必要になった場合も、シノファーム製を求める可能性が高いからだ。
「中国は生産施設や熟練作業員を運び込んでいるので、それに伴い長期的な影響力を中国に与えることになる」と、ドゥマレ氏は言う。「そして今回、中国のワクチンを使う各国政府が今後、ほかの何についても、中国に『ノー』と言うのは非常に厄介なことになっていく」。
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ただし、世界的なワクチン超大国になっても、自国民が真っ先に予防接種を受けられるとは限らない。
EIU調査は、世界のワクチン製造で2大拠点となる中国とインド両国において、それぞれの国民にワクチンが十分に行き渡るには2022年末までかかると予測している。これはどちらの国も人口が巨大で、しかも医療従事者が不足しているからだ。
EIU調査は各地の製造供給力、人口規模、医療従事者の人数、インフラ、金融などを考慮した
インドが新型コロナウイルス・ワクチンの供給国として成功しているのは、主に1人の功績による。アダル・プーナワラ氏が社長のセラム・インスティチュート・オブ・インディア(インド血清研究所)は、世界最大のワクチン・メーカーだ。
しかし、昨年半ばにもなると、プーナワラ氏が狂ってしまったのではないかと家族は心配し始めていた。成功の見通しが立たないワクチンに、何百万ドルもの自己資金をつぎ込み始めたからだ。
そのワクチンは、英オックスフォード大学と英アストラゼネカ社が開発していたもので、今年1月にはインド政府に提供された。今ではプーナワラ氏の会社が毎日240万回分をライセンス製造している。同社はインド国内の2大ワクチン・メーカーのひとつで、ブラジル、モロッコ、バングラデシュ、南アフリカにもワクチンを供給している。
「ワクチンを完成させれば、プレッシャーも大騒ぎも収まると思ったが、全員を満足させるのが何より大変だ」と、プーナワラ氏は言う。
「ワクチンを供給できる業者がほかにもたくさん出ると思っていたが、残念ながら少なくとも今年の第1四半期は、もしかすると第2四半期になっても、供給量の大きな増加は見られないかもしれない」
製造量を一晩で急増させるのは不可能だと、プーナワラ氏は言う。
「それには時間がかかる。セラム・インスティチュート・オブ・インディアが、魔法の調味料を手に入れたかのように思われているが。確かに自分たちは優秀だが、魔法の杖を持ってるわけではない」
セラム・インスティチュートがいま優位に立っているのは、昨年3月の時点で製造施設を造り始め、8月から化学品やガラス容器の備蓄を始めていたからだ。
製造過程で実際に作れるワクチンの量は場合によって大きく増減するし、何かしらの問題が製造過程の随所で起こり得る。
ワクチン製造は「科学であると同時に、職人技でもある」と、ドゥマレ氏は言う。
今から製造に手をつける業者がワクチンを作り出せるようになるまでには、数カ月かかる。新しい変異株の予防に必要なブースターの開発製造においても同様だ。
まずはインドにワクチンを行き渡らせてから、「COVAX」を通じてアフリカ諸国にワクチンを提供するつもりだと、プーナワラ氏は言う。
「COVAX」とは、世界保健機関(WHO)と「ワクチンと予防接種のための世界同盟(GAVI)」、「感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)」が主導する、新型ウイルス・ワクチンの世界共同購入・配分計画だ。世界中の全ての国に、安価なワクチンを届けることを目的にしている。
ワクチンを購入する経済力のない国々は、特別基金を通じて無償で得られる。 それ以外の国は代金を支払うが、この枠組みを通じて価格交渉したほうが、単独でするより安く買えるというのが、仕組みの狙いだ。
この間、枠組みに参加する多くに国がすでに独自の売買交渉を進めているため、これがCOVAXの妨げにもなっている。
プーナワラ氏は、独自にワクチンを調達したいアフリカ諸国のほぼ全ての政府トップから、個別に連絡があったと話す。2月初めにはウガンダ政府が、1回分7ドルで1800万回分のワクチンをセラム・インスティチュートから調達できることになったと発表した。COVAXが払うワクチン代は1回分4ドルだ。
COVAXは各国に出資金の増額を呼びかけている。写真はインド・ムンバイで予防接種を受ける女性
セラム・インスティチュートはウガンダと協議中なことは認めるが、合意成立は否定している。
プーナワラ氏は、自分たちがライセンス製造するアストラゼネカ・ワクチンについてWHOの承認が得られ次第、COVAXに2億回分を提供すると話す。COVAXにはさらに9億回分を追加提供する予定だが、その時期は明らかにされていない。
COVAXは重要で今後も関わっていくものの、その仕組みは問題に直面しているとプーナワラ氏は認める。COVAXはあまりに多くの製造業者を相手にしており、それそれが異なる価格や、供給への行程表を提示している状態だからだ。
EIUとドゥマレ氏も、COVAXの先行きをあまり楽観していない。すべてが予定通りに推移したとしても、年内に目標としているワクチンの提供量は各国の人口の20-27%に過ぎない。
「わずかな違いはもたらすだろうが、事態を根本的に変えるものにはならない」と、ドゥマレイ氏は言う。
EIU報告での予測でドゥマレ氏は、予防接種が2023年まで行き渡らない国も出るだろうし、最後までワクチンが行き渡らないままの国も出るだろうとしている。ワクチンは最優先課題ではないという国もあるかもしれない。特に、人口が若い国や、発症者がそれほど多くない国がそうだ。
ただしその場合、新型コロナウイルスはそういう場所で変異と伝播(でんぱ)を重ね、増え続けてしまう。ワクチンに抵抗力のある変異ウイルスが生まれ続ける。
とはいえ、悪い話しかないわけではない。ワクチン製造はますます加速している。しかし、世界の77億人が予防接種を受けられるようにするというのは、とてつもない前代未聞の巨大な作業だ。
ドゥマレ氏は、何がどこまで可能なのか、各国政府は国民に正直に語るべきだと考える。
「けれども、『大規模な予防接種の実現には数年かかる』と政府が公言するのは難しい。誰もそんなことを言いたくはない」
(データ・ジャーナリズム:ベッキー・デイル、ナソス・スティリアノウ)