Neo economy 無形資産、成長の源に:日本経済新聞

★★★:バランスよく議論できる
★★☆:意見を吟味する
★☆☆:客観的情報
☆☆☆:議論用ではない
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Dec 16, 2019 03:01 AM
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事実ベース
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立体的(多角的)
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考察的・思想的
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調査、データ、観察的
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経済成長をけん引する主役が入れ替わった。機械や工場といったモノに代わり、知識やデータなどの「無形資産」が企業や国家の富を生み出している。姿形の見えない富の源泉が動かすネオエコノミーの潮流を追う。
企業を成長させるのは「ヒト・モノ・カネ」の3要素だと言われてきた。このうちモノを代表する設備投資は20世紀の経済を成長させるエンジンだったが、近年は様変わり。研究開発(R&D)やブランドといった無形資産が企業の投資を引き寄せている。

日米の企業で投資が急拡大

企業の投資は機械や工場といった「有形資産」と、R&Dやブランド価値(のれん代)など「無形資産」に分けられる。ソニーをはじめ日米を代表する企業で21世紀のバランスシートの変遷を見てみよう。
出所はすべてQUICK・ファクトセット

ソニー、ゲームや音楽の版権が拡大

かつて「ウォークマン」で一世を風靡した日本の代表的なモノづくり企業も、21世紀に入るとビジネスモデルを転換する。ゲームや音楽の版権などが拡大し、2010年度には無形資産の規模が有形資産を上回った。近年は営業利益の7割を無形資産が稼ぎ出す。

楽天、強みは1億人の会員データ

無形優位の傾向はIT(情報技術)企業で顕著だ。日本で最大級のインターネット市場を展開する楽天は1億人以上の会員データが強み。日々大量に集まる取引データから「ランキング」や「オススメ」を作りだし、新規顧客の獲得につなげている。

アマゾン、研究開発に最大の3.2兆円

インターネットの巨人「GAFA」の一角で、18年12月期には世界最大の3兆2千億円を研究開発に投じた。流通の要となる倉庫に加え、最近では店舗など物理的な資産への投資も進めている。

ウォルト・ディズニー、動画配信に参入

今年も実写版「アラジン」や「トイ・ストーリー4」が大ヒットした世界的なコンテンツ企業。11月には豊富な作品群という無形資産を生かすため、動画配信サービスに参入した。
出所はすべてQUICK・ファクトセット

ウォルト・ディズニー、ソニーの2.5倍

日米を代表するコンテンツ企業だが、無形資産の規模は2.5倍を超える開きがある。今年6月、米投資ファンドはソニーに対して、無形資産の成長を高めるべく半導体事業の分離を提案した。
日米ECサイトの雄では、無形資産で3.7倍の差がある。アマゾンは先端科学やデータなど無形資産の結晶である人工知能(AI)にも積極的に投資している。
Section2
企業の無形資産が作り出す富はどのようにして消費者の手元に届いているのか? 「無料」に見えるサービスの裏には、知識やデータといった富の源泉が詰まっている。LINEを例にみてみよう。
価格
若者を中心にコミュニケーション手段として欠かせないLINEは、スマホさえ持っていれば誰でも無料で使える。東大生が約1200人に「いくらもらえたら1年間LINEをやめますか」と尋ねると、平均して「1人300万円」という答えが返ってきた。見た目の価格はゼロなのに消費者が得るお得感は、経済学の世界では「消費者余剰」と呼ばれている。
価格(0)
サービスを作り出す側のLINEは、開発コストに利益を上乗せして事業を運営している。約8000万人の利用者が日々発信するデータも、次のサービスの開発や広告にとって重要な資源となる。
LINEの開発や運営には何が必要だろうか?ネットを利用したメッセージ・アプリという「アイデア」、利用者に愛されるスタンプなどの「デザイン」、そして大量の「データ」を解析できる「人材」。いずれも現代経済の主役である無形資産だ。
無形資産はソフトウエアやデータベースといった「情報化資産」、研究開発(R&D)やデザインなどの「革新的資産」、人材や組織などの「経済的競争力」の大きく3つに分けられる。
経済成長は「1人当たりの生産量」を表す生産性に大きく左右される。ソフトウエアやR&Dは新たな知識を生み出し、仕事の効率を上げる。そしてデータやデザインを駆使できる高度な人材が生産性の源であるのは言うまでもない。次に国単位で無形資産の推移を見ると、ネオエコノミーのどんな姿が浮かぶだろうか。

主要7カ国の投資比率推移

まず、GDPに占める有形資産投資と無形資産投資の割合を1995年以降の20年間で見てみよう。取り上げるのは米国、スウェーデン、日本、ドイツ、英国、中国、インドの7カ国だ。
出所:日本経済研究センター日本の13~15年は予測値、中国とインドはすべて推計値
IT化が進んだ2002年に初めて無形資産投資が有形を上回り、その後は無形優位が続く。GAFAをはじめインターネット企業やトップ大学が新たな知恵を生み出すサイクルを回す。
通信機器のエリクソンなどが急成長した1990年代に無形シフトが進み、GDPに占める無形資産投資の比率は15年に13%と米国(11%)を上回る。
無形資産投資は少しずつ増えているが、機械や工場などモノ優位が続く。IT化が進んだ90年代以降に長期不況を経験した影響も大きいとされる。
日本と同じくモノづくり大国のドイツもいまだ有形資産への投資が無形を上回る。近年は工場をネットワークでつなぐモノのインターネット化(IoT)を国家的に推進し、巻き返しを目指す。
金融大国は有形・無形の規模が拮抗。無形資産を研究するインペリアル・カレッジのジョナサン・ハスケル教授は「イノベーションの実現に必要な知識への投資が増えてきた」と話す。
圧倒的に有形資産の規模が大きいが、統計が未整備という側面もある。アリババやテンセントなど大手ITはAIなどの分野で特許を積み増している。

インドはインフラ整備を優先

世界にIT人材を供給しているが、国内的にはインフラ整備が優先されている状況。頭脳の国外流出が懸念されている。
さらに、先進12カ国の中でも無形資産の規模や内訳にはばらつきがある。「情報化資産」「革新的資産」「経済的競争力」の3つで見ると、日本は経済的競争力が弱い。「人的資本を育てるための投資が足りていない」(米プリンストン大の清滝信宏教授)との指摘がある。
出所:日本経済研究センター
OceanTomoがS&P500銘柄の時価総額に占める有形・無形資産の割合を算出
IMFのM・C・ダオ氏らが先進27カ国で推計
企業も国家も無形資産への傾斜を強めているが、新たな富の源泉は目に見えないだけに、従来の物差しでは実態がつかめない部分も残されている。
無形資産は取引されずに企業や大学に埋もれているものも多く、価値も変動しやすい。米シンクタンク、コンファレンス・ボードのキャロル・コラード氏は、2017年に米国内で2.25兆ドルの無形資産投資が生まれたが、61%は公式統計が捕捉していないと推計している。
米シンクタンク、コンファレンス・ボードのキャロル・コラード氏の推計
無形資産の特徴として、データや優秀な頭脳を抱える一部の企業に集中しがちという点が挙げられる。過去10年の寡占度(上位5社の売り上げシェア)の推移を見ると、インターネット業界は55%から72%まで高まった。米フェイスブックや中国テンセントなどによる寡占傾向が強まっており、モノを代表する自動車業界とは対照的だ。
出所:QUICK・ファクトセット。業種別の売上高上位5社の占有率を計算
21世紀の経済を支配する無形資産は、寡占化や格差の拡大を通じてマクロ経済にも大きな影響を与えている。未知の領域を明らかにし、必要な政策を進化させていくことが求められている。