移民が多い南米ブラジルは、イタリアやスペインとの人の行き来が多く、国内に持ち込まれたウイルスの感染が広がっている。感染者数は、１６０００人と急増。死者も８００人を超え（４月８日現在）、国民の間で新型コロナウイルスへの危機感が高まっている。サンパウロとリオデジャネイロでは、自治体が先月（３月）下旬から外出禁止を要請し学校も休校、レストランも閉店している。しかし、こうした中でも、ボルソナロ大統領は、ウイルスの脅威を軽く見るような言動を繰り返し批判が高まっている。
スラム街「ファベーラ」
南米ブラジルでは、貧しい人たちの住むスラム街「ファベーラ」と呼ばれる地域が多くある。公営の水道を利用できないほどの劣悪な衛生状態のため感染が拡大している。それぞれの地域を掌握している犯罪組織さえも、住民に対して外出しないように呼び掛けるなど予防措置を取る事態になっている。
ブラジル ボルソナロ大統領
そんな中で、物議を醸しているのが、国を率いるボルソナロ大統領の発言だ。国民に対し、「新型コロナウイルスはたいした病気ではない」と断言するなど強気の発言を繰り返している。
ボルソナロ大統領
「新型コロナウイルスは、軽いインフルエンザか、ただの風邪程度だ。マスコミは、各国の事例を最大限に言いはやし恐怖をあおっている」
週末には、支持者の前に姿を表し、素手で握手をして自ら積極的に「濃厚接触」するボルソナロ大統領。そして、自身のツイッターには「隔離政策を続けたら、ウイルスが消えないばかりか大混乱になる」と投稿するなど、外出禁止はブラジル経済を停滞させると猛反発している。
なぜ、これほどボルソナロ大統領は強気なのか。 それは熱帯雨林のアマゾンがあるブラジルでは長年伝染病と闘い、克服してきた自負があるからだ。
インフルエンザ予防接種
南半球に位置し、これから秋から冬へと季節が変わるブラジル。先月（３月）からインフルエンザの予防接種を無料で行うキャンペーンが始まり、今後はデング熱やはしかの予防接種も行う予定だという。ボルソナロ大統領は、新型コロナウイルスも他の伝染病と同様、被害を最小限に抑えることができると主張しているのだ。しかし、各地の知事からは、ボルソナロ大統領の危機感の低さに批判が相次いでいる。サンパウロ州知事は「失望している。この国難で指揮を執れる大統領が望ましかった」と嘆いた。
“ボルソナロ大統領が率いる政府を頼ることはできない” 今、それぞれの自治体が補助金を出し、独自の対応を進めている。
サッカースタジアムに設営された臨時病院
サンパウロにあるサッカースタジアムには、グラウンドに２０００人が収容できる臨時の病院が建設された。ブラジル各地で、現在中止になっているサッカースタジオを利用した臨時の病院が、１０か所以上で作られている。 さらに、長引く在宅生活で溜まったストレスや心理的な負担を減らすために、各地でベランダ越しに楽しむＤＪパーティーを開催するなどの対策が取られている。しかし、ボルソナロ大統領は、自治体の独自の取り組みは、ブラジル経済にプラスにならないと批判している。
ボルソナロ大統領
「一部の知事の政策のせいで、ブラジル経済が崩壊しそうになっている」
一方、急速な新型コロナウイルの感染の拡大により、懸念されているのが治安の悪化だ。先月（３月）サンパウロ州の刑務所では、新型コロナウイルスの蔓延を防止するため屋外活動を禁止したことに反発した囚人１４００人が脱獄した。こうした動きは、ブラジルの１０を超える州の刑務所で広がっている。 さらに、外出禁止の取り締まりに警察がかり出されたことで犯罪組織の抗争も激化。リオデジャネイロでは、先月（３月）の犯罪の発生件数が５０％も増え、住民を恐怖に陥れている。ブラジル政府は、感染の抑止と犯罪の防止という２つ課題を抱えて難しいかじ取りを迫られている。