「ユニバーサル・ベーシックインカム」で貧困や経済格差は解決できるのか | クーリエ・ジャポン

★★★:バランスよく議論できる
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☆☆☆:議論用ではない
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Sep 27, 2020 08:40 PM
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Illustration: sorbetto / Getty Images
ユニバーサル・ベーシックインカム(UBI)が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックによる不況のなかで再注目されている。
では、いざUBIを公的な社会保障制度として導入しようとする場合、具体的にどんな課題があるのか? そもそも、実現可能なのか? どのくらいの費用対効果があるのか?
アメリカの社会保障制度が専門で、UBIを国レベルで導入した場合のシミュレーションを発表したばかりの経済学者が真っ正面から答える。
「アニュアル・レビュー」のデジタルメディア「ノウアブル・マガジン」に掲載された記事を許可を得て翻訳・掲載しています。
「ユニバーサル・ベーシックインカム」(最低所得保障、UBI)は、長年、真面目に語られることのない、不遇な経済用語だった。
だがいまは違う。すべての人が無条件で、月々一定額の給付金を受け取る制度として、一般にも知られるようになった。
アメリカ大統領選に立候補したアンドリュー・ヤンがUBIをメインの公約に掲げたことでも話題になった。かつての「ウォール街を占拠せよ」運動(オキュパイ運動)もUBIを要求した。経済学者や政治家たちは、急速な自動化や格差の拡大によって不安定になった雇用の「ビッグな解決」を探している。
そこに起きたのが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックだ。収入がとつぜん途絶えた労働者が大量に発生し、UBIが脚光を浴びるようになった。
実際、所得補助の拡大を支持する政治家は多い。2020年の民主党予備選挙でも話題になった。現在の社会保障制度は、失業者や非正規労働者、低所得者、高齢者、障害者、子供のいる世帯など、不利な立場にある人々が対象だ。
だが、UBIは対象を選ばない。誰でも無条件に受けられ、福祉にありがちな汚名を気にすることなく、安定が得られる。

そもそも「ユニバーサル・ベーシックインカム(UBI)」とは?

カリフォルニア大学バークレー校の経済学者ヒラリー・ホインズとジェシー・ロススタインは、UBIがアメリカやその他の主要国で、国レベルでどう実施されうるかを想定し、その分析を「アニュアル・レビュー・オブ・エコノミクス」誌に発表した。
分析では、UBIと似ているが対象が限定される「アラスカ永久基金」や、先住民の東部チェロキー族に施行されている補助制度が取り上げられた。受給条件がより厳しい公的扶助も検討された。
「ノウアブル・マガジン」は、UBIの課題や導入した場合にありうる影響、対象をさらに絞った所得補助の見通しなどについて、ホインズに取材した。
──UBIなどの研究に関わるようになったきっかけは?
長年、公共政策や公共セーフティネットが、アメリカで子供を育てる低所得世帯の暮らしにどう影響するかを研究してきました。公的現金扶助、勤労所得税額控除(EITC、低所得の勤労世帯の就労を促しつつ所得再配分効果を高めることが目的)、「フードスタンプ」(現在の正式名称は「補助的栄養支援プログラムSNAP」、金券の形での食費補助)などの栄養補助制度についてずいぶん研究しました。
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ヒラリー・ホインズは、カリフォルニア大学バークレー校で経済学を教える Illustration: James Provost / CC BY-ND

最も一般的なUBIとはどのようなもの?

「ユニバーサル」「ベーシック」「インカム」をそれぞれ分けて考えるといいと思います。
「ユニバーサル」は必要の有無を問わず、誰でも受ける資格があるという意味です。ほとんどの公的セーフティネットは、条件つきです。所得が貧困ラインの1.5倍を超えると、フードスタンプはもらえません。EITCも収入があることが条件です。しかしUBIは無条件です。ビル・ゲイツもマーク・ザッカーバーグも、レジ係のシングルマザーも資格があります。
「ベーシック」には、全面的な保護と呼ぶにふさわしい量の給付があるという意味合いがあります。したがって、給付が限定されている「アラスカ永久基金」はベーシックインカムとは言えません。
「インカム」は、現物ではなく現金という意味です。
一般的にUBIは、就労を条件としない現金給付と理解されています。

真のUBIは存在するのか?

アメリカには、本当の意味での「ユニバーサル・ベーシックインカム」はないと思います。
フィンランドが試験運用しているベーシックインカムは失業者が対象なので、ユニバーサルではありません。ケニアの実験は、ユニバーサルでベーシックと言えそうですが、まだ試験段階なので普及はしていません。
真のユニバーサル・ベーシックインカムを作るには、ユニバーサルにするための財源確保に取り組む必要があります。
──UBIの到達目標とは?
UBIに関心のある人たちには、2種類の考え方があります。
ひとつは、現在の公的扶助は最弱者の生活改善には不充分だという考えです。アメリカ人の所得は長いこと伸び悩んでおり、未熟練労働者の賃金は減り続けています。その一方で、各種生活費は増え、支払いが追いつかない。こうした状況をなんとかしようとする考え方です。
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UBIを公約に掲げていたアンドリュー・ヤンの支持者たち(2019年10月、カリフォルニア州サンフランシスコにて) Photo: Amaris Woo
もうひとつは、現在のセーフティネットが複雑でわかりにくいという不満のある保守層の考え方です。現行制度は入り組んでいて効率が悪く、労働意欲を失わせている、全部廃止して単純な制度に替えれば良くなるというのがその主張です。現行制度の代替としてUBIを考えているとすれば、広範囲で深刻な影響をもたらします。

UBIをもらったら人は怠けるのでは?

──UBIは「タダ乗り」を生むという批判があります。生活費ではなく、酒やたばこに使われてしまうのではと心配する人もいます。その批判は当たっていますか?
一般的にわかっているのは、現在、所得補助を受けている人は、通常の所得と同じように補助金を使うということです。補助金の大半は、家賃や交通費、食費、衣料などの生活費に充てられています。
This article originally appeared in Knowable Magazine on April 3, 2020. Knowable Magazine is an independent journalistic endeavor from Annual Reviews, a nonprofit publisher dedicated to synthesizing and integrating knowledge for the progress of science and the benefit of society.
Translation by Mariko Sakurai